蓬と蔦の話
2013/04/01 23:03

ちょっとしたタジマさん小咄。
ちょう短い。微妙に注意。
試作なんで肉付けも構成の練り直しもしてないんでスッカスカな内容。





肩を滑る髪を、細く白い指が梳いた。
骨のようなその指が、そのまま肩に食い込む。
ギシリと軋みをあげる骨に、息が引きつる。
薄暗く四角い匣の中で、冷えた藺草の香りだけが意識に沁みる。
――眩暈がする。
全身の血管に鉛を詰められたかのように、身体が重く怠い。
息が苦しい。
浅く呼吸を繰り返しながら、開かれた襦袢の襟を閉めた。
覚束ない目玉で目の前の輪郭をなぞる。
光を最大限まで取り込むために開いた瞳孔が、その貌を網膜に焼き付けた。
冷えた肩を、温い体温を帯びた手のひらが掴んだ。

喉元に食い込む犬歯に小さく呻いた。
彼は至極満足そうに笑んで見せる。
皮膚に滲んだ赤をざらついた舌が撫でる。

「もう少し。楽しめると思ったのですが」

つまらない娘でしたね。

べしゃりと力なく畳の上に倒れた私を見下ろし、彼が抑揚に欠けた声で紡いだ。
障子の向こう側で、パタパタと小さな駆け足が響く。

「父様、何してるの」
「ああ、イズナですか」
「修行の時間でしょ。兄さんが遅いって怒ってる」
「そうですね。片してから向かいます」
「後片付け?」
「ええ。母様に怒られてしまいますからね」
「手伝う?」
「いいえ。ひとりでできますよ」

優しげに子どもの頭を撫でる彼を見る。
……あの手の温度を思い出すことは、もう今ではできない。
あの子が羨ましい。
私が、彼の子を産むことができたなら。
彼の隣にいることを許されたのだろうか。
彼に愛されることができたのだろうか。
愛する人の子を抱き、その人の隣で笑う未来を得たのだろうか。
ただの、女でありえたのだろうか。

「さて」

ずるりと、髪を引かれて身体が引きずられる。
畳に擦れる肌にじりっとした熱が一瞬だけ走る。
ついでひりひりとした痛みが走り、それが少しずつ肥大する。

「夕餉までには、戻るようにしましょう」

襖が開く。
その先は真っ暗だった。
彼が一瞬だけ足を止め、はてと首を傾げた。

「……これの名前はなんだったか」

忘れてしまった。
私を見た彼は訝しげに呟いた。




よくわからん話。



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