「ユリコー!お前の愛らしさを理解できる女が三次元(こんなとこ)にもいたようだぞ!」


え、と現在の状況を軽く説明させていただこう。今日は学期に一度の委員会会議の日だ。それぞれの教室に分かれて一学期間の活動内容を確認し、解散するだけの儀式的なもの。それなのに、あたしは会議が終わったあとも、この教室に居残らされていた。この一年生によって。


「田村、くん?」
「はい!何ですか本宮先輩!あ、そうですよね!このユリコも可愛いでしょう?」
「う、うん…」


きらきらした瞳に見つめられては、もう帰りたいなどと言えない。本気で困っているあたしに気付きもせず、田村くんは長机の上にクリアファイルや下敷き、ブロマイドなんかを次々に並べてゆく。それらの上では、可愛い女の子がこちらに向かってにっこり笑顔を浮かべている。え?勿論、二次元に決まってるじゃないか。


「いやーでもまさか本宮先輩がユリコをご存知だとは思いませんでしたよ!」
「うん…あたしも田村くんがこっち系だとは知らなかったよ」


既にその面影すらないが、田村くんは一応あたしたちの学年の女の子たちから「学年で四本指に入るイケメン」としてきゃーきゃー言われている。事実、顔立ちは整っているわ、頭はすこぶる良いわ、スポーツも万能だわ、で正に少女漫画のヒーローみたいな男の子である。この趣味が、なければ。


きっかけは今日の会議中。隣に座った田村くんにシャーペンを借りた。ありがとー、なんて笑ってそれを見たとき、飛び込んできた大きなお目々、奇抜な髪の色、ありえない制服を纏った女の子。あたしは思わず二、三日前に兵助と見たアニメを思い返して、漏らしてしまったのだ。「あ、ユリコちゃんだ」って。それからは早かった。会議が終わり、帰ろうとする人の波に乗ろうとしたら、「本宮先輩!」大声で呼び止められた。目は爛々と輝き、興奮したかのように息が荒い。ああ、あたしはこの状態の人間をよく知っている。一度火が付いたら、留まる術を知らないということも。


「それで第五話の作画がひどくって!ユリコの靴下丈もいつもより数pも長かったですし、話のところどころはつよきすに似通ってたんですよ!全くスタッフはちゃんと原作を理解して作ってほしいですよね!」
「うん、…そうだよね」


ぷんすか怒る田村くんには悪いけど、あたしにはどうだっていい。それにしても兵助で耐性が出来てるあたしにはこれぐらい何てことないけど、普通の女の子だったら発狂しちゃうんじゃないだろうか。あんまり悪い噂を聞いた覚えもないから、普段は隠してるのかな。あ、でもシャーペンがモロじゃん。


「咲ーまだ終わってないのか?」


急に兵助の声がして、慌てて見回すと窓から兵助が顔を出していた。時計を見ると、会議が終わってから既に一時間も経過している。その間ずっと語り続けた田村くんはすごい。ポスト兵助は君のものだ。しかし兵助が来てくれてよかった。話を切り上げて帰る口実が出来た。あたしはユリコちゃんより再放送のドラマが見たい。


「ごめん兵助!じゃあ田村くん、あたし帰るね」
「あ、はい!楽しかったです!またユリコの話しましょうね!」


デレデレした笑顔で田村くんがあたしに手を振る。ツッコミどころが多すぎたので放置した。もういいよ、あたしもそういうキャラで。だが、世の中というのはそんなに上手くはいかないもので。


「ユリコ…?」


はっとしたように田村くんを見つめる兵助。田村くんも期待を込めた瞳で兵助を見つめ返す。げ、これは同志が出会ってしまったようだ。現在午後4時半。とりあえず、ドラマを見逃すことは決定した。


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ユリコは実在しませんよ

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テーマ「人外ファンタジー」
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