このメンバーでカラオケに行くことは滅多にない。別にみんな歌が下手だからって行きたがらないわけじゃない。雷蔵はスピッツとかミスチルとか山崎まさよしを、三郎はラッドとかバンプ、ハチはアジカンとかホルモン(ちなみにナヲ姉のパートはあたしがやる)とかB’zをなかなか上手に歌いあげる。問題は兵助だった。暇さえあれば一日中ニコニコを見てる兵助が、ボカロの曲ならまだしも、一般的な流行曲を知っているだろうか。答えはノー。だからあたしたちのカラオケはいつもジョイサウンドだ。それでも兵助は基本的に他人の歌を聴いてるだけで、マイクを握ろうとはしないし、口も余り開かない。だけど唯一、あたしの歌う番のときだけはやたらと口を挟む。


「咲、メルト」
「えーさっき歌ったじゃん」
「じゃあ、アクエリオン」
「それ来て早々に歌ったよ」
「ふぃぎゅ「やだ!」


兵助はあたしにアニソンとか電波系の曲を歌わせたがる。音域は高い方だから歌うのに苦はないし、兵助が喜んでくれるのならいくらでも歌ってあげたい、とは言うものの。さすがにずっとハチ曰く「耳がキンキンする」曲を歌い続けるのは酷だし、他の三人は仕方ないと笑いつつも少々呆れ果てている。あたしだって大塚愛とかaikoとか歌いたい。だからそれとなく交渉してみるけど、いつも跳ね退けられてしまう。まさに久々知兵助が倒せない、状態だ。


「あー!もう!たまには兵助も歌えよな!ほら、マイク!」
「兵助でも歌えそうなの、入れとくね」
「咲は休んどけ」


そう言って三郎はあたしに烏龍茶の入ったグラスを渡してくれた。雷蔵がにこにこしながら端末を弄り、ハチは兵助の肩を抱いて、お立ち台まで連れて行った。スピーカーからイントロが流れ出す。どこかで聴いたことのある懐かしいメロディーライン。銀河の彼方、イスカンダルへ…って。


「ヤマトかよ!」
「翔べ!ガンダムと迷ったんだけど…」
「雷蔵よくやった!兵助まじ歌うめぇ!」


全力で突っ込むハチに、舌を出してはにかむ雷蔵、何故か爆笑する三郎に囲まれて、あたしは兵助から目が離せずにいた。普段の無表情のまま低音の美声で歌う兵助は、何て言うかすごく格好良い。短いその歌を歌い終わると、兵助は心なしか頬を赤くして、あたしの隣に腰掛けた。


「ねえ、兵助!」
「…何だよ?」
「上手だったよ!それに、すごい格好良かった」
「……あ、そ」


これは本格的に恥ずかしがってるみたい。俯くせいで長い前髪が顔を覆い隠してしまって、その表情は判別しがたいけど。ああもう!かわいいな!あたしは何度だって兵助に恋をする。


「兵助が頑張ったんだし、あたしも歌おうかな!兵助、何がいい?」
「…ハナマル☆センセイション」


勿論、歌わせて戴きましたとも!



「(咲が歌った方が萌えるんだよなー)」
「兵助ってさ…ある意味、三郎より本能に忠実だよね」
「言うなよ雷蔵…」
「いちゃつくんなら、こいつらだけでカラオケ来りゃいいのに」
「「(同感…)」」

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