「あ…はぁ、やっ…んっ」


現在、土曜日の深夜2時を回ったところ。一人暮らしをしている彼氏の家に泊まり込んで、年頃の男女が二人で勤しむことといったら勿論、あれ。兵助の荒い息遣いを耳元に感じる。一際甘く高い声で啼いた。


「お、おにっいちゃん…!」


光彩を放つディスプレイの中で、ピンク色の髪をしたあられもない姿の女の子が。


「へーすけ」
「ん?今イイとこなんだから邪魔するなよ、咲」
「あーごめんごめん。こうゆうのってさ、ヌくためにするんじゃないの?あたし何かやる?」
「いいよ、やんなくて。俺これやるの五回目だし、ただスチル見たくなっただけだから」
「ふーん」


それは彼女を家に招いた日まで見なくちゃいけないものなのだろうか。そしてリアルの女体を後ろから抱え込むように座っておいて、手を出す気配がまるで見られないっていうのは一体どういうことだ。そんなに魅力ないかなあ、と下ろした視界に入るのは、パジャマ代わりのでかいTシャツの上からでもわかる凹凸のない身体。むむ、原因はあたしにあるとでも言いたいのか。


「へーすけーもう寝ていい?」
「ああ、そこのベッド使っていいから。おやすみ」


もう一度言おう。あたしたちは恋人同士である。画面に釘づけになったまま動こうとしない兵助にほとほと呆れて、ベッドに潜り込んだ。意外と几帳面で綺麗好きな兵助の布団はお日様の匂いがする。きっと今日も日干ししたんだろうな。家庭的な一面を見る度、嫁にしたいと本気で思う。弁当だって毎日手作りしててすごく美味しいし、掃除洗濯も慣れたもの、ゴミの分別だってうるさい立派な主夫だ。いくつかの欠点もまるごと愛してしまえば、理想的な旦那様。


「へーすけ」
「……咲?」
「結婚、しよーね」
「はいはい、おやすみ」


やる気ない返事でも返ってきたのが嬉しくて、思わず近くにあった大きなクッションにぎゅうっと抱き着く。なんか肌触りあんまりよくないな、これ。「咲!」突然、兵助の怒鳴り声が響いてびっくりしてるうちに、ずかずかと近寄ってきた兵助があたしの腕からそのクッションが奪い取った。兵助の腕の中にすっぽり収まったそれの上には、微笑む長い黒髪の幼女。やばい、梨花ちゃんの抱き枕だったのか。


「咲!…ったく、梨花ちゃまには絶対触れるなって言っただろう!汚れたらどうする!」


本気でキレてる兵助を見るのは珍しい。怒るときはいつもこれだけど。壁一面に貼ってあるポスターも、棚に立ち並ぶフィギュアの数々も、どれもあたしに触る権利は許されていない代物だ。兵助の影響で普通の女子高生よりはサブカルチャーに詳しくなったあたしでも、その情熱は理解しえない。大体、あたしは詩音ちゃん派だし。だけど、普段は穏やかな兵助を一度怒らせると、一晩中説教するからろくに睡眠も取れなくなる。仕方ないから渋々謝るあたしを完全に無視。悲痛な面持ちで梨花ちゃんの際どいところを叩いてる兵助は、一般的に見たら気持ち悪いのかもしれない。でも、あたしにはそれすらも愛おしい。あたしもつくづく病気だな、って実感する瞬間だ。


「ごめんね、兵助」
「…咲だから許す」


こうやって、時たまあたしを特別扱いしてくれるとこも好き。なんだかんだ文句言ってても、そこは惚れた弱み。恋愛は好きになった方が負け、って本当らしい。あたしは一生兵助を嫌いにはなれないし、何されたって許してしまうだろう。


「おやすみ、咲」


そう言って、兵助は額にキスを落として、にっこり微笑んでくれた。今日はいい夢が見れそうだ。譬えBGMが女の子の喘ぎ声だったとしても。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -