「兵助は祝わないの?」


親が旅行中の三郎の家にいつものメンバーで集まって、マリカーではしゃいでいる時だった。ちなみに兵助は深夜アニメの予約を忘れたとかで、一旦家に帰っているところだ。今日はオールで遊ぶ予定、らしい。明日は創立記念日でちょうど休校だし。三郎がさっき宣言していた。そんな中突然、雷蔵が可愛らしく小首を傾げてあたしを窺い見る。祝う、と言われても、その理由に全く見当がつかない。誕生日とも違うし、もうすぐ練習が始まる体育祭に見たまんま文化系な兵助が関係あるとも思えないし。兵助が応援団長に決まったとかだったらどうしよう。格好良い、だろうけど似合わなすぎる。きっとあたし吹いてしまう。しかし、応援団長をやった人は総じて体育祭が終わって数ヶ月間、援団マジックという魔法を掛けられた女の子たちに黄色い声を上げられ続けるのが我が校の伝統なのだ。あたしの友達の芦ちゃんも去年団長だった阿部先輩に合同練習のときに一目惚れし、体育祭が終わったあとも写真を渡したりアドレスを交換したり、ものすごく熱を上げていた。一年も経った今は、彼女自身そんなことすっかり忘れているみたいだけど。その対象が兵助になるなんて面白くない。


「咲ー俺たち二年はまだ団長にはなれないぞー」
「…ハチに心読まれてる!」
「咲は顔に出過ぎ」
「なんだか百面相してたけど、兵助を祝う理由はわかった?」
「…わかんない、です」
「じゃあヒント」


雷蔵はにっこり笑って壁に掛かったカレンダーを指差す。意外と大人っぽいモノトーンでまとめられた三郎の部屋に馴染む、シンプルなカレンダーには今日の日付にハートマークが書かれている。三郎、今日そんなに楽しみにしてたのかな。ちょっと可愛いぞ。雷蔵をちらっと見てもにこにこ微笑んでいるだけだ。これ以上のヒントはくれないらしい。今日は、9月8日…違った。今はもう0時を回ってるから9月9日か。9…九…あ、わかったかもしれない。


「久々知の日、みたいな?」
「正解。咲ちゃん、三郎なんかは祝ってあげたのに、兵助には何もしてあげないの?」
「ちょっと雷蔵!なんかとは何だなんかって!酷いっ!」
「咲のことだから、馬鹿でけぇケーキとか用意しそうなのにな」
「ケーキは誕生日のときでしょ。兵助のはまだ先だし、99で久々知は無理矢理すぎるかなーって思っちゃって」
「ハチに咲まで無視!?」
「でも兵助気にしてたりしてね」
「兵助に限ってそれはない」
「ハチに一票」
「俺にも一票くれよ!」


ぎゃーぎゃー騒ぐ三郎はスルー。雷蔵に指摘されて気付いたけど、そういえば三郎は祝ったんだし、無理矢理でも何か準備しておけばよかった。あたしの家なら豆腐は常備してあるけど、既製品ばかりで生活してる三郎の冷蔵庫に豆腐があるとは考えにくい。お祝い…なあ。そのときあたしの目に、絶好のアイテムが飛び込んできた。兵助が帰って来たのか、インターホンが鳴って雷蔵が迎えに部屋を出て行く。あたしは三郎とハチを呼び寄せると有無を言わせずアイテムを装着させ、すぐさま台詞を二人の頭に叩き込んだ。一瞬びっくりしていたけど、ノリのいい二人は、にやりと笑って親指を突き立てた。二人分の足音が近付いてくる。ドアが開く。せーの、あたしは小さく掛け声を掛けた。


「「「おめでとなのです!」」」
「…何してんの、お前ら」


予想より呆れ返った兵助の声がしーんとした部屋に響き渡った。雷蔵は口に手を当てて笑いを堪えてるけど、肩がばっちり震えている。あれ、おかしいな。「咲!お前ばっちりって言ったよなぁ!」1番先に我に返ったハチが顔を赤くして、さっき即興で着けた角を乱暴に取り外す。せっかく三郎が何かの機会(きっとくだらないことだ)に使おうと思っていたらしい、コスプレセットを見つけてひらめいたのに。兵助嫌いだったかなあ、羽入ちゃん。


「咲はいいとしても三郎とハチは不愉快だ」
「ひどい…!差別だわ!」
「いや、常識で考えて当たり前でしょ。三郎気持ち悪い」
「せめてキモいにしてくれ!」


いつものように夫婦漫才が始まったところで、あたしも角を外した。今の気持ちを一言で述べるなら正しくあぅあぅ、だ。入り口でぼーっとしていた兵助が、漸く思い付いたように口を開く。


「何の祝いだっけ?」
「今日9月9日でしょ?久々知の日、ということで」
「あー」


ほら、やっぱり無関心じゃない。今となっては深夜だし、何をやっても次の日には記憶も曖昧になってるからいいか、と一人納得していたら、小さな笑い声が聞こえた。ハチは羞恥から黙りこくっている、雷蔵はキレ気味、三郎は泣きそう、つまり笑ってるのは兵助だ。じっと見つめると、兵助はすごく綺麗に笑っていた。


「…なんか嬉しいの、かも。ありがとな、みんな」


あたしは思わず兵助にダイブ。他のみんなも勢いよくそれに続いた。ぐちゃぐちゃに絡み合って、痛い暑いと文句を言い合いながらも笑い声は絶えない。とりあえず、この生物が可愛すぎるのが悪いと思います。


H A P P Y
K U K U C H I
D A Y



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とりあえず
芦ちゃんに謝りたい
お名前拝借の上
いやな役回りごめんね
団長の阿部先輩…どう?
なんて…本当にすみません
苦情は受け付けます^^

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