「今日、三郎の日だよね」


突然咲の口から出された言葉に一同は唖然となる。かくいう俺も名前を出されたわりに、その理由が分からず困惑している。誕生日では勿論ない。俺の誕生日はとっくの昔に終わっている。あのときは散々だったな。親のいない兵助のアパートで宴会しようとしたら、開始5分で俺のレイちゃんに触るな!と言ってキレられた。咲が宥めているうちに、家族が出払ったらしいハチの家を確保。それから始まった飲み会はさながら地獄絵図のようだった。歯止め役その一の兵助は早々に酔い潰れ、間もなくその二のハチも腹を出して寝てしまった。残ったのは普段のキャラも忘れ悪酔いする雷蔵と、意味もなく笑い続ける咲。酔いが回りにくい俺は完全に被害者だった。楽しいとか楽しくないとかそういう話じゃなかったぞ、あれは。本気で泣いたのなんか小学生以来だった気がする。次の日当然のように酔っていた間のことを忘れやがったあいつらに、俺は二度と飲み会はしないと心中で強く誓った。まあ、多分しちゃうんだろうけど。関係ないところに話が飛んだが、とにかく誕生日関連ではないはずだ。だとしたら何かの記念日、ということも考えられるが、生憎この兵助馬鹿と記念になるような何かを成し遂げた覚えもない。いや、成し遂げてくれるんなら歓迎だけど。咲の顔も性格も嫌いじゃないし、むしろ好きな部類に入る。じゃなきゃつるんでないか。


「咲ちゃん。今日は三郎の誕生日じゃないよ?」
「知ってるよー雷蔵!ちゃんとパーティーしたじゃん」
「あ、あれは楽しかったね」
「うん!三郎めちゃめちゃ怯えてて面白かったー!」
「最後なんか泣いてたよね」
「あはは!」


いや、お前ら絶対あの時のこと覚えてるよな?覚えてるだろ!誰だ何にも覚えてないって言った奴!っていうか今はそんなことどうでもよくて、いやどうでもよくはないけど物事には優先順位ってもんがありましてね。とりあえず何で今日が俺の日なんだろうか。


「ん、咲」


さっきまで黙ってた兵助が咲を手招きして呼び寄せる。咲は嬉しそうに兵助の元にぱたぱた走っていき、内緒話をするように口許に手を置く兵助に、耳を寄せた。ごにょごにょ。兵助が言った何かしらに、咲の顔がぱあっと明るくなる。


「そう、その通り!さっすがあたしの兵助!」
「咲のじゃねぇよ」
「ハチうるさい。悟りの悪い鈍ちんは黙ってなさいよ」
「んだと咲!」
「何よ!」
「どっちもうるさいよ」
「「すみませんでした」」


なんか既視感を覚える光景を眺めていたら、雷蔵が二人に雷を落とした。頭を下げていた咲はテレビの上のデジタル表示の時計を見て、「あ!」と叫ぶ。つられて向かう四つの視線。時計はちょうど一の桁の数字が変わる瞬間だった。


8/8 PM 3:26


88326、…鉢屋三郎。その答えに思い至った瞬間、言いようのない恥ずかしさに似た感情が込み上げてきた。頭のてっぺんから爪先まで熱が流れて、血液が沸騰してるような錯覚を受ける。今日は咲が集まろうと全員にメールを一斉送信したため、俺んちに集まった。もしかして咲、これがやりたかったのか…?


「よかったー全員で見れたね!記念すべき三郎の瞬間!」


悪戯が成功した子供のように咲はへへ、と自慢げに笑う。あまりの馬鹿らしさに俺も声を出して笑った。兵助も、ハチも、雷蔵も、それだけのために集められたことに文句一つ言わず、俺たちと一緒に笑い出す。ああもう、なんだよ。お前ら、最高じゃんか。


「ちょっ…泣くなよ三郎!」
「また三郎泣いてるー」
「俺…お前ら大好きだ!」


雷蔵に気持ち悪いと一蹴された後も、俺の涙は止まらなかったし、あいつらの笑い声も絶えず響いていた。柄じゃないけど、俺お前らに出会えて幸せだわ。


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