「えと、きりちゃんの幼なじみの鈴です。今日一日よろしくお願いします」


鈴のばか丁寧な挨拶に我らがは組の男共は一瞬停止した後、教室の破壊もありえるほどの馬鹿でかい声で返事をした。いつまでも成長しないクラスと評判の俺たちは次々に質問を投げ掛ける。一度にこんな大人数と会ったことなどないに違いない鈴は目をちかちかさせて、何処を見ればいいのか誰に答えればいいのか、途方に暮れていた。その様子があまりに可笑しかったので豪快に噴き出すと、俺を目の端で捉え情けなく眉を下げる。が、頬は締まりがないため、きっと嬉しいんだと予想した。土井先生の一喝で場はとりあえずの収束を見て、鈴は乱太郎が気を遣って空けてくれた俺の横に座る。


「笑ってないで助けてよ」
「またまた〜嬉しそうだぜ」
「そんなこと…」
「ん?」


わざと意地悪く覗き込めば、照れくさそうにそっぽを向き、ぼそりと蚊の鳴くような声を出した。


「…あるけど」


不意に零した幸せそうな笑顔に頭でも撫でてやりたい衝動に駆られるが、彼女の気持ちを尊重してやめておいた。行き場をなくした手で頭を掻く振りをしている最中も、何故か始業式のくせに行われた初めての授業に鈴は誰よりも熱心に聴き入り、時折上がる笑い声に一緒になって笑う。今まで見てきた彼女の中で、最も美しく、最も輝いて見えた。


今日は歓迎会、ということで通常授業らしい。午前の授業も終わり、折角だからということで普段はばらばらに摂る昼食もクラス全員で食べることになった。食堂に向かう道すがら、鈴はずっと兵太夫と並んで話している。兵太夫は代々伝統的に美形揃いだった作法委員の名に相応しく、先輩や後輩の女子に持て囃される顔立ちであるため、二人並ぶ姿はとても似合っていたが何故か胸がむかむかする。だが俺の眉間に皺が寄っているのに気付いて鈴が呼び掛けてきたときには治まっていたので、嫉妬というものなのだろう。お金以外の何かに執着するなんて以前の俺からは考えられないことだ。彼女との出会いが俺に変化を齎している。それは紛れも無い事実であった。


「きりちゃん?」


既に昼食の載ったお盆を両手で抱えている鈴がまだ受け取っていない俺を促す。当然のように隣に腰掛ける彼女に何となく安心した。


「疲れてないか?」
「全然!やっぱり、すごく楽しいね」


にこにこと花を散らしながら全身で表現する鈴は本当に普通の少女にしか見えない。いつも会うときの寝間着ではなく、動きやすい町娘と似たような格好をしているのも大きかった。


「そっか、よかったな」
「うん!…本当にこうやって、生きていけたらよかったのにね…」
「え?」
「あ、ううん。何でもない。きりちゃんのお陰だよ。本当にありがとうね」


何か言ったような気がして聞き返すも笑顔でごまかされてしまう。問い詰めようとした瞬間、庄左ヱ門のよく通る声が「いただきます!」と先導する。それに続くような形で皆口々に挨拶すると一斉に箸に手をつけた。鈴曰く、どんな高級料理よりもあったかくて美味しかった、らしい。


食事を終えて、そのまま教室に戻り思い思いの時間を過ごしていると渋い顔の山田先生が俺と鈴を呼びに来た。学園長が用事だそう。俺たちを下らないことで呼び付けるのは常だが、鈴まで呼ばれるとなると話は別だ。傍らの彼女も盆栽を誤って割った子供のようにそわそわしている。ばれたのかもしれない、お互い視線を絡め合って、せーので障子を横に引いた。そこには、考えうる限り最悪の絶望が広がっていた。

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