「きりちゃん」
彼女はとても大人びていた。
下らない戦で家族も
故郷もなくして、
同級生とは比べれない程に
世の中の世知辛さを
知っていると自負していた
俺よりも、ずっと、ずっと。
「きりちゃん」
彼女はとても幼かった。
一番穢れているはずの瞳は
いつだってきらきら輝き、
俺の名前を呼ぶ
舌足らずな甘い声は
何より優しく柔らかかった。
「きりちゃん」
彼女はとても賢かった。
自分の身分を残酷なまでに
理解していたし、
その領域から一歩外に
出ることさえもしなかった。
顔も知らない誰かのために
ただ、精一杯戦っていた。
「きりちゃん」
彼女は、とても愚かだった。
「だいすき」
そしてまた、
俺も愚かで無力な
子供に過ぎなかったのだ。