「叶子ー!腹減ったぞ!」


教室中に響き渡る左門くんの声に、残っていた人はみんなこちらを向く。相変わらず恥ずかしいんだから。


「左門くん…これから部活でしょ?」
「おお!だから何かくれ!」
「しょうがないなぁ」


スクールバッグを探ってカロリーメイトを取り出す。お気に入りのチョコレート味。最近は左門くんのための食料と化している。左門くんに手渡すと勢いよく封を開けて食らい付いた。カロリーメイトってぼそぼそするし、喉に詰まっちゃうと思うんだけど。案の定噎せた左門くんに水筒を与え、落ち着いたところで溜息を吐く。こんなのは、実は日常茶飯事だったりする。わたしと左門くんはここに入学するずっと前からの付き合いだ。お父さんが他界して、家賃の安いアパートに引っ越したわたしたち家族に優しくしてくれたのが、大家だった左門くんの家族だった。といっても左門くんの極度の方向音痴のために、主にわたしが面倒を見ていたけれど。それでも彼がわたしを気遣かってくれているのは本当に嬉しかったし、左門くんの明るさに救われてる部分が大きかった。手のかかるもう一人の弟、みたいな感じ。


「ぷはっ!助かった叶子」
「はいはい」
「今日は作が帰ったからな…俺が中等部の奴らの面倒見なくちゃいけないんだ」
「っあ、そうなの」


富松くんはあの後、無言で作業を終わらせ、授業中もずっとうなだれていて、放課後になった途端帰ってしまった。部活命の彼にしては珍しいそうだ。たまに助っ人として入るらしい次屋くんも不思議がっていた。わたしのせい…じゃないよね。彼の優しさのせいで自覚してしまった劣等感に胸が痛む。


「叶子ー?何かあったのか」
「べ、つに「嘘だな!」
「嘘じゃないよ」
「お前、わかりやすいぞ」


次屋くんに引き続き、またも言われてしまった。情けないなあ、詐欺師になれないタイプみたい。ならないけど。


「左門くんには、関係ないよ」


わたしがそう返すと、左門くんは悲しそうに眉を寄せた。切り揃えられた前髪が淋しげに揺れる。


「俺じゃあ、叶子の力になれないのか?」
「そういうわけじゃ、」
「じゃあ言ってくれ」
「っ…」
「作のことか?」
「!」


びっくりした。鈍くて空気読めないと思い込んでた左門くんがぴたりとわたしの悩みを当てたから。その動揺を見透かしたように、左門くんはにんまり頷く。


「作はお前が好きだからな!」
「へ…、」


満面の笑顔にわたしは何も言えない。好き、好き、あ、友達としてって意味だよね。富松くんって義理人情とか好きそうだし、人望も篤いし。そういうことならわたしだって彼に好感を抱いている。悲しいけど、彼は優しいから。


「わたしも好きだよ」
「なにっ!ほんとか!?」
「うん、いい友達になれそう」


まだ殆ど知り合ってないけど、相手がいい人ならばこちらが拒まない限り、よい関係が築けると思う。わたしがそんな期待を口にすると、左門くんはあからさまにがっかりした。


「ちっがーう!作は叶子のこと可愛いって言ってた。それってよく分からんけど、男と女の仲になりたいってことじゃないのか?」
「…うっ、そだぁ…」
「嘘じゃない!何なら明日にでも作に訊いてみろ!」


左門くんはまくし立てたあと、ばびゅんと擬音が付きそうな猛スピードで部活に向かって行った。残念なことにそっちの方向に体育館はない。中等部の団蔵くんとか鉢屋先輩が迎えに来るまで待ってればいいのに。でも今は、そんなことどうでもよかった。


「富松くんが、…すき?」


左門くんが嘘を吐けない性格なのは十分理解してる。だけど彼自身が勘違いしていたら?そう、きっと左門くんの思い違いなんだろう。わたしみたいに平凡な人間を、好きになってくれる人がいるわけない。しかも富松くんはあの円山さんと幼なじみ。目は肥えてるから、並大抵の女の子じゃ戦えないだろう。況や、わたしなんて。


そんなことあるはずない、

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