―やな女だね、私。


校庭の隅のもう使われなくなった焼却炉に隠れて泣いている作を見た瞬間、安心してしまった。作の想いは潰えたのに、作は滅多に零さない涙をあんなにぼろぼろ流してるのに。私はほっとしたのだ。作が振られてよかった、だなんて。最低な女。こんなだから作は私を好きになってくれなかったんだろうな。我ながら笑えてくる。卑怯で、狡猾で、私は汚い。


「…円山、いるんだろ」


気づかれていないだろうと思っていたのに、作はこっちを見ないまま私を呼んだ。突然のことにびっくりする。まだ、掛けてあげる言葉も見つかっていない。


「え、っと…ん…と」
「その様子だと知ってんだな」


しまった。いくら何でも情報が早過ぎると思われてしまう。あれからがむしゃらに一人になりたいだろう作が行きそうな場所当たってたらここに着いただけ。だから、そんな表情しないでよ。


「俺、振られちまったよ」
「……っ」
「お前はこんな気持ち知らねぇんだろうな。好きなやつに振られる、辛さなんか」


そんなの知ってる。今だってその苦しさに必死に抗って、息も止まりそうなぐらいに。俯いたまま私を見ようともしない作に今日だけは感謝した。こんな醜い女の表情した私を作の目に映して欲しくない。返す言葉を探す余裕もなく、あの娘に対するどろどろした闇色の感情に蝕まれてゆく。どうして作を傷つけるの。私なら絶対に作を悲しませたりしないのに。


「好き、だったんだよなぁ…」


独り言のように呟いて、水分の膜を張った作の瞳は天を仰ぐ。そこには未だにあの娘への慕情が見て取れた。作の溜息につられて、私の視界も歪む。


「…なんて、お前に言ってもしょうがねぇか」


大きく息を吸い込んだ作が無理矢理に作った笑顔は、彼が私をやっと視認した瞬間に固まる。見開かれる瞳孔。作の澄んだ目にいる私は、泣いていた。


「…なんでお前が泣くんだよ」


作は困ったように呆れたように、大人びた笑顔を浮かべる。その懐かしい姿に堪らなくなって、私はしゃがみ込む作の身体を思い切り抱きしめた。以前とは全く違う広くなった胸板に有無を言わさず顔を押し付ける。作の慌てふためいた悲鳴が耳をついた。


「ちょっ…おい!円山!?」
「…き」
「はっ?いいからとりあえずどけって「好き」


作がぽかんとしたのが空気でわかる。背中に回した腕にぎゅっと力を入れた。もう後戻りは出来ない。溢れてくる感情を抑えるのは不可能に近かった。


「ずっと、好きだったの」
「お、い…何、言って」
「傍にいれるなら幼馴染でもいいって思ってた。作が幸せならそれでいい、って。でも、もう限界。私なら、作を悲しませたりしないもん。ねえ、作」


顔を上げて、作の視線と合わせる。作の顔は赤く染まっているけれど、それはさっきまで泣いてたからかもしれない。―どっちでもいいか。どうせ今日で幼馴染という関係は幕を下ろすんだ。どうなったって構わない。伊賀崎、わたしはもう逃げないよ。作の目の中の私は化粧は落ちてるし、顔は真っ赤だし、ひどく汚かったけれど、今までで1番好きだと思えた。


「私が作を幸せにしてあげる」


作を想うと、世界はこんなにも美しく変わる。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -