「…は?」


いや、意味わかんない。理解の範疇超えてる。なんで、昨日の展開からそうなるわけ?私、ちゃんと言ったじゃない。長続きしてって、ユウちゃんと仲良くしてって。なのに、どうして?


「団、っ蔵…金吾、がわかれ…よう…、って…!あた、あたし、金吾の、…こと!まだ好きなの…に!」
「ユウ、わかってるから、な?落ち着けって」


昨日悩み過ぎたせいか、頭が痛くなったから、四限の終わりに保健室に行った。昼休みと五限使って寝れば良くなるだろうと踏んでたのに、この様だ。入ろうとドアに手を掛けた保健室からは、聞き知った男女二人の声。もしかしたら私、保健委員並の不運かもしれない。大体皆本くんは何やってるんだろう。確か剣道部らしいし、ばりばり武士みたいな風貌のくせに、日本語理解出来なかったのかな。沸々と怒りが募る。


「どう、しよ…っあたし、どうしたら…!」
「っだから、落ち着けって!」


がたごと、ばさっ。机と椅子が擦れ合って立てる音に続いて、紙束が床に盛大に散らばる音。ちょっと待って。これって、ものすごくやばいんじゃないの?


「だん、ぞ…?」
「俺が、ユウを守るから。だから、泣かないでくれよ」


がらがらがら、今度は私の中の何かが崩れ落ちる音。まさかの急展開じゃないか。明日お弁当作ってくる予定も、来週遊園地デートに行く約束も、全部水泡に帰してゆく。こんなことになるなら、昨日だって一緒に帰ればよかったし、もっといっぱい話せばよかった。なんで、つかの間の幸せすら続かないの、これも全部、


「あ、れ…麻生さん?」


なんてバッド、いやナイスタイミング?階上から下りてきたのは、今回の騒動の諸悪の根源、皆本金吾だった。私は即刻皆本くんのシャツの裾を引っつかみ、でけでけ階段を駆け上がる。適当な空き教室に潜り込み、抵抗する様子も見せない皆本くんを解放した。滅多に運動しない私が呼吸を調えてる間も、皆本くんは息一つ乱さないで使われていない黒板を視線でなぞっていた。なんだその表情、ちょっと格好いいじゃないか。でも今はそんなことどうだっていい。勢いもそのまま皆本くんの胸倉を掴む。身長差のせいでかなり無理のある体勢だけど、渾身の怒りを込めて皆本くんを睨んだ。


「…なんで、なんで振っちゃったの!?」
「…………」
「少しは空気読んでよ!私がどんな思いで団蔵と一緒にいたと思ってんの!?」
「…………」
「皆本くんのせいで、団蔵が取られちゃったじゃない!せっかく、上手く行ってたのに!やっと私を見てくれたのに!なんで、なんで…!?」
「…………」


激昂する私とは正反対に、皆本くんはひどく冷静だった。何にも言わないで、同情するように労りの瞳で私を見ている。どうせなら見下してよ、醜い女って軽蔑してよ。お願いだから、何か言って。私を可哀相な女に仕立てないでよ。


「麻生さんは、本当にあれでいいと思ってたのか?」
「…だっ、て…」
「本当に、幸せだったか?」
「…っ幸せ、だった、よ」
「もうやめろよ。辛いんだろ」


いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!気付いたら皆本くんを突き飛ばして走り出していた。学校なんて嫌い。皆本くんなんて嫌い。ユウちゃんなんて嫌い。団蔵なんて、だ い き ら い 。


誰も知らない、世界の果てに行きたかった。




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