本日二十通目の同じ内容のメールを内心呆れつつ削除した。もはや顔と名前が一致しない男の子たちは、今朝から何度も似たような言葉を私に送り付けてくる。今となってはもう終わった仲。私はそのどれにも返信することなく、着拒の数だけが増えていく。あ、この人は何となく覚えている。確かなかなか豪勢なレストランに連れていってくれた人。あそこのデザート美味しかったな。


「あんたいつか刺されるよ」


私の唯一の友人が昼食のウィダーを口から離して呆れたように言った。読み取れない表情だけど、一応心配してくれているのだ、と思う。普通にイケメン好きだし、ミーハーだし、自己中なとこもあるけど、彼女は他の女みたいに私がぶりっこだからとシカトしたりしないし、なんだかんだ言ってこんな私と連んでくれている。レナぐらい開き直って調子乗られた方が、謙虚ぶって見下してる奴らと腹の探り合いするよりマシ、と以前彼女は言っていた。私も彼女といると気が楽だ。だからこうして大抵一緒にいるし、お互いの大体は把握している。彼女がそう言うんなら、私は本当に刺されるに値するぐらいのひどいことをしているんだろう。自覚がないってのも更に最低だ。


「刺されないよ」
「あたしが男だったら、絶対あんた刺して自分も死ぬ」
「それはないって」
「なんでよ」
「向こうも遊びって割り切ってるよ。じゃなきゃ私みたいな評判悪いのにちょっかい出さないし」


自慢じゃないけど近隣高校での私の評判はすこぶる悪い。性悪だの尻軽だのヤリマンだの。だから遊び相手としての私を求める人はいても、恋愛ごっこの相手役に私を抜擢するようなチャレンジャーはいないのだ。別に噂なんてどうでもいいけど。団蔵じゃないなら、誰だってさしたる変わりはない。そんなことを考えながら、食後のカフェオレを口に含んだ瞬間、廊下から馬鹿でかい声が私を呼んだ。


「レナー!売店行こーぜ」


途端に集まる鋭い視線。横目で覗けば、クラスの女子全員がぎろりと擬音が付きそうな形相でこちらを睨んでいた。あら怖い。あちこちでこそこそ陰口が叩かれるが、全く気にしないまま友達に断りを入れて廊下に出た。


「わりーな」
「いいよ。もう食べ終わってたし。ちょうど黄金比率プリン食べたかったから」
「よーし俺がおごってやる!」
「まじ!ありがと団蔵!男前!かっこいい!」
「だろー」


まるで彼氏彼女みたいな雰囲気で会話を繰り広げながら一階の売店に向かう。団蔵はどこまで本気なんだろう。付き合うフリ、ってどういうのを指すのか、私にはわからなかった。団蔵は馬鹿だから、今浮かんでる笑顔に偽りはないことは知ってるけど、それでも疑問は残る。私はどの程度彼女面していいの?


「ね、だ「あー団蔵だ」
「おー!ユウ!」


私が団蔵に声を掛けようとしたところ、ちょうど前から歩いてきた男女二人組の女の方が団蔵の名前を呼んだ。途端に上がる団蔵のテンション。ふうん、この女か。不躾と知りつつ、上から下までその女を眺める。確かに顔は悪くないし、性格も明るくて面白い典型的な人気者って感じ。わいわい騒ぐのを好む団蔵なら、好きになってもおかしくない。そのまま視線を横に流す。団蔵の言葉通りなら、この隣の男が彼氏だろう。そっと窺い見ると、何故か顔を真っ赤にした純情そうな青少年がいた。なに、暑いの?


「そーだ、ユウ。こいつ俺の彼女のレナ!」


団蔵が彼女の反応への期待に満ちた表情で私を紹介すると、彼女―ユウちゃんは目を見張った。この目はうんざりするぐらいよく知ってる。私を軽蔑してる目。こんな女が、って見下してる目。


「初めまして、麻生レナでーす」
「初めまして…玉城ユウです。こっちは彼氏の…」
「…皆本金吾」


さすがに不快感を隠して挨拶する女が促して、隣の男も口を開く。同学年だろう名前くらいは聞いたことあるような気がするが、顔に見覚えはない。じっと見つめていてもこちらに一度も視線を遣ろうとしないのがカンに障る。私みたいなのとは目も合わせたくないってわけ?


「団蔵、麻生さんと付き合ってるって噂本当だったんだ」
「ん?あーまあな」


焦ったようなユウちゃんに満更でもないような団蔵。わかってたことだけど、改めて目の前でやられるとやっぱり傷つく。私は団蔵にとってこのコをおびき寄せるための、擬餌でしかないんだ。それでもこうすることを選んだ私は救いようのない馬鹿らしい。仲良く話をする二人につまらなくなって、ふいと視線をさ迷わせると、隣の皆本くん?が目に入った。彼女が他の男と話してるっていうのに、敵愾心を燃やす様子もにこやかに見守る様子もない。その姿をしばし観察して私は悟る。何故かは知らないが、彼は彼女に興味がないのだ。そして、彼は


「皆本くんだっけ?」
「…あ、ああ。何だよ」


ぶっきらぼうな態度だけど、私にはわかる。これは敵意とか憎悪とかそんなマイナスなものから来る態度じゃない。合わない視線も真っ赤な頬も、全部私のせい。


「これからよろしくね」


にっこり、と音が付きそうなぐらい微笑んでやると、皆本くんは火が出そうなくらい赤くなった。こくこくと頷くその様子は、こっちが恥ずかしくなるぐらいわかりやすくて可愛い。こいつ、確実に私のこと好きだ。何だか面倒なことになってきたなあ。私はおかしな事態を他人事のように受け取りながら、仲睦まじくじゃれ合う団蔵とユウちゃんを冷ややかに見つめていた。




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