「それで…どうしてわたしは連れ込まれたんでしょうか?」


新妻さんにせがまれて、隣の自室から原稿を持って来てあげた。和やかなムードに忘れそうになるけど、事の発端は雄二郎さんがわたしを強引に部屋に入れたためだ。なのに雄二郎さんは新妻さんの原稿のチェックを始め、新妻さんもわたしの原稿を読み、わたしはおいてきぼりになる。堪らなくなって思わずわたしは口を開いた。


「あれ…そういえば君なんでいるんだい?」
「あなたが連れて来たんでしょうが!」
「…ああ!そうだそうだ」


ポン、と手を打ち鳴らす古い動作をして、雄二郎さんは得意そうに鼻を鳴らす。この人は見た目通りに頼りない人のようだ、なんて失礼な考えが頭を巡った。


「春日居さんは隣に住んでるみたいだし、これは予想外だったけど同じ漫画家だなんて運命だよ!新妻くん一人で生活できるか不安だったんだ…よかったら春日居さんが面倒見てあげてくれないか?」
「え、へ、はい…?」
「おおーっ!ナイスアイディアです!僕春日居先生好きです!ぜひ友達になってください!」
「ちょっ…え、好きって…!」


わたしの原稿を読み終えたらしい新妻さんが目をきらきらさせて雄二郎さんの無謀な案に全力で乗る。だけどわたしは新妻さんが何の臆面もなく言った「好き」に戸惑ってしまって、ろくに返答もできなかった。これだから女子校育ちの恋愛経験ゼロな女は…と編集の長束さんが溜息を吐く姿が目に浮かぶ。彼女はわたしの青春時代における色恋沙汰の欠如を何よりも心配しているのだ。わたしの頭が急沸騰しているうちに二人は勝手に盛り上がってしまっていて、次に戻ったときには雄二郎さんが「お金は新妻くんの口座から引き落としてくれていいから、とりあえず朝晩の食事とゴミ出しの指導、あとはご近所付き合いなんかをよろしく頼むよ」とさも当たり前のようにおっしゃっているところだった。わたしもしがない一高校生だということを忘れてはいないか。漫画に集中できるように格式だけの比較的ゆるい高校に通ってはいるが、勉強もあるし何より自分の執筆もある。自分のついでと割り切ってしまうのは簡単だけど、あまりにもわたしのデメリットが多過ぎはしないだろうか。何か文句を言おうとした瞬間、雄二郎さんは新妻さんの原稿を仕舞って立ち上がる。


「じゃあ僕は次の仕事が押してるから帰るよ!春日居さん、とりあえず新妻くんをお風呂に入れてあげてくれ」
「お風呂、って…!彼、同い年ですよね?」
「一人だと面倒くさがって入りたがらないんだよ!いいから頼んだよ、これ通帳とカード」
「ちょっと、雄二郎さん!」
「長束さんには僕から話を通しておくから、じゃ!」


唖然、呆然。そんな言葉がよく似合う展開。開いた口が塞がらないわたしに追い打ちを掛けるように、新妻さんの声が響く。


「んん!脱げないです!」


見れば黒のスエットの上着を脱ごうとして頭に引っ掛けている新妻さんの姿。ちらりと覗く真っ白で薄っぺらい腹が視界に入ってしまい、意味もなく罪悪感に苛まれる。「脱衣所で脱げ!」と叫んだあとに浴槽にお湯を貯め始めるわたしは、やはり既に負けているような気がしないでもない。


お風呂に入れてあげる



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