「ばっかじゃないの」


冷たい視線がわたしの心臓を刔って、段々と目の前の輪郭が曖昧になっていく。それでもわたしは笑うことを止められないし、彼に優しくすることも出来ない。氷のような冷たさの中に人肌の温もりがある彼とは違い、羽毛で包まれたわたしの中身は空っぽだ。


「うん、わたしばかみたい」
「自覚があるとは救われないね」
「誰が、救ってくれるというの?」
「そんなこと…」


彼はいつもの癖で髪を弄る。わたしは何にもしないで黙って見てるだけ。生まれてすぐに愛を欠落したわたしたちはどこか狂ってしまった。誰かを求めて、誰かを傷つける。まるで縄張りを守る獣のように。それでも彼は、前を向くのだ。何かを支えに生きていこうとする。わたしとの距離は縮まらないまま。


「私が、知りたい」


彼は本当はその答えを知っている。助けてくれるのは神様じゃない、自分自身や強い絆で結ばれた仲間だということを。わたしはそっと舞台から降りる。知らなくていい、解らなくていい、与えられたところで、わたしは空っぽなんだから。彼の冷たさは時にわたしをせつなくさせる。


笑わなくなった道化師

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