「おそーい!ジュース買ってくるのに何時間かかってんのよ」
「ごめんってばーアイスも買って来たんだから許してよ」
「アイスで子供みたいに喜ぶのなんてカイト兄だけだもん!」
「…そうだな、俺だけだよ」
「げっ…カイト兄…」
「リンちゃーん!レンくーん!わたしもいるよー!」
「はー…ミク姉までいるわけ」
「カイト兄、ミク姉!どうしてマホと一緒なんだよ?」
「スーパーで買い物してるうちに昼ご飯を一緒に食べよう、って話になったから家に連れてきたの!カイトさんがお小遣いから払ってくれたから、感謝してね」
「「ありがとーカイト兄!」」


声を揃える双子を見て、なんだか微笑ましい光景だなあ、と思いました。普段は憎たらしいほど女王様気質なリンも、カイトさんの前では借りてきた猫のように大人しいのです。聞けば少々情けないとこもあるけれど、人生の先輩として尊敬する気持ちが少なからずあるそう。二つも年上のわたしは?という疑問は飲み込んで忘れました。材料費は出してもらいましたが、調理はわたしの仕事です。彼らの中では、料理は作るものではなく食べるものなのですから。

「今日の昼ご飯なにー?」
「あんかけ焼きそば!」
「ネギは?ばっちりネギ買って来たよ!ネギはいつ入れるの?わたしネギなら切るよ!」
「あとで頼むから落ち着いて、ミクちゃん」





「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「ぷはー美味しかったよ、マホちゃん!特にネギが!」
「なんでわたしのネギまで取られなきゃいけないのよ…マホ!食後のアイス食べたい」
「はいはいちょっと待ってて」


リンの命令により、スリッパを鳴らしてキッチンに向かいます。すると流し台にお皿を置いてくれているレンがいました。「僕が片付けるからいいよ」全く出来た弟です。洗い物はレンに任せて、台拭きを濡らそうとしたところ、レンが静かに口を開きました。


「ねえ、マホ」
「なーに、レン」
「…マスターは、いつ帰ってくるのかな」
「……さあ、なんたって馬鹿兄貴だから」
「そうだよ、ね」


わたしが、鏡音姉弟を放って置けない本当の理由。それは彼らが兄の帰りを待ち望んでいるからです。歌うことが存在理由な彼らにとっては兄、つまりマスターこそが絶対必要な存在で、彼がいなくては自由に歌うことも出来ません。兄がこの家にわたしと、彼らがインストールされたPCを置いたまま出て行ってから、もう二ヶ月になります。兄がPCを弄ることがなくなって、一ヶ月経ったぐらいに彼らは実体を得て現実世界に現れました。そもそも意思がある存在なのか、歌えないストレスがそうさせたのか、わからないことばかりですが、いまここに彼らは存在しています。わたしにはその事実だけで十分です。リンがわがままなのもきっと、歌いたいのに歌えないジレンマのせい。


「歌いたいんでしょ?…ごめんね、わたしがPC使えたらいいのに…機械音痴で」
「ううん、マホが悪いんじゃないよ。それに…僕らのマスターは、あの人だけだから」


こんなとき、レンはぐっと大人っぽい表情をします。寂しいような、切ないような、だけど期待を秘めた胸に迫る表情。十四歳の男の子に、こんな顔させちゃだめでしょ、馬鹿兄貴め。


丘の風になりたかった昼

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テーマ「人外ファンタジー」
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