「うぁっ…!」
「風丸!」


風丸くんが悲痛の声を上げて、片膝を抑えながら地面に倒れ込む。慌てて駆け寄る円堂くんの肩越しに見える、にんまり笑う不動の姿。あの野郎、また…!


「不動!またわざと足狙いましたね!?」
「…うっせぇな。これも作戦の一つだろ?」
「仲間同士で潰し合ったって何の得にもならないです!」
「仲間?違うな。俺たちはライバル、蹴落とし合うのが筋ってもんだろ」
「そんなの、違います!」
「みやこ、もういいから」


ふーふー、毛を逆立てた猫のように荒く呼吸するわたしを風丸くんが目線で宥める。どうして被害者の風丸くんが譲らなければいけないのか。久遠監督もこんなやつのスタンドプレーを褒めたり、何を考えているのかわからない。練習には励んでいるものの素人同然の技術しか持たない飛鷹くんを合格させて、戦力になるシャドウくんや染岡くんを落とした理由も聞かされないし、わたしたちには確かに不安と不満が燻っていた。わたしの場合はそれが不動の自己中心的な振る舞いに集中し、今ここで爆発してしまった。


「不動!いい加減に周りを見てください!あんた一人でサッカーやってるんじゃないんです!」
「…お前には関係ないだろ」
「関係なくないです!」
「関係ねーだろ!お前はただのマネージャーなんだから大人しくサポートだけやってりゃいいんだよ!何も知らねぇくせにいっちょ前の口利くんじゃねぇよ!」
「…なっ…!」


言い返せない自分が悔しかった。確かに不動の言う通り、わたしはフィールドに立てるわけでもなく、指示を出せるわけでもない、ただの観覧者だ。選手の苦しみも、想像こそ出来ても、理解することなど不可能なのだ。わたしには何の力もない。不動を批判するのは何も知らない人間の偽善に過ぎないのかもしれない。


「…すみません。頭、冷やしてきます!」


制止する声も聞かずに走り出した。不動の舌打ちだけが耳に残って離れない。フォローする側のわたしが雰囲気を乱してどうするんだ。ひとつ引っ掛かってしまったら、芋づる式に嫌な感情がとめどなく溢れてくる。わたしも男の子だったらよかったのに、なんて馬鹿なことも何度か考えた。選手の苦しさを掬い取ってあげたい、少しでも支えになりたい、思い上がった奉仕精神は、何の意味もなかった。ばか、ばか、ばか!結局わたしは、大人になりきれていないただの子供なんだ。誰かを理解ろうとしてすぐに転ぶ。起き上がるための手を差し出してくれる人は今ここにいない。


―みやこ、ほら泣かないで。君を泣かせるようなやつは俺がぶっ飛ばしてあげるから。俺、みやこの笑顔好きだな。


今は笑えないよ、一哉くん。

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テーマ「人外ファンタジー」
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