「おい、ドリンク寄越せ」
「つーん」
「うざっ…口でわざわざ言ってんじゃねぇよ」
「糞野郎に利く口は生憎持ち合わせていないのです」
「てめぇ…」
「不動くん!これどうぞ!」


不穏な空気を読み取った秋ちゃんが不動にドリンクを慌てて押し付けた。当然のように受け取って、お礼の一つも言わない不動に更に苛々が募る。秋ちゃんもこんな大して働いてないやつに渡さなくてもいいのに。


「みやこちゃん、選手のサポートがわたしたちの仕事なんだから、好き嫌いしちゃだめだよ」
「いやなものはいやだから、仕方ないです。それに不動以外にはちゃんとしてます」
「だからー…」
「はっ!餓鬼くせぇやつ」
「む、お前にそんなことを指摘される覚えはないのです」
「そうやってムキになるとこが餓鬼だっつてんだよ」
「ガキでよいです。ませて不良ぶってる最低糞野郎に比べれば、自覚がある方がましです」
「おい、誰の話してやがんだ」
「つーん」
「まあまあ、みやこ。俺にもドリンクをくれ」


風丸くんが苦笑いでわたしの頭を撫でる。背の低いわたしはよく子供扱いの恰好の餌食にされるのだ。風丸くんは優しいし、いい人であるので文句は言わないけれど。風丸くんにドリンクをあげた瞬間、もう一人のお兄ちゃん、綱海くんがわたしの肩をがっと引き寄せる。相も変わらずお日様のようににかっと笑って、わたしの髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。


「ははっ!猫みてぇ」
「うーやめてくださいー」
「けっ…馬鹿じゃね」


不動はじゃれ合うわたしたちに対して、舌打ちを残して去って行った。あれが強がりならばかわいいものかもしれないけど、あいつの場合はただの根性悪さだ。サッカーという団体競技の選手なくせして、やつには協調性とか連帯感というものが欠如している。今のやり取りだってわたしが悪いんじゃない。きっと。


「お前人懐っこいくせに、なんで不動とは仲良くできねーんだ?」
「嫌いだからです。サッカーを愛せない人間なんて」
「確かにあいつは自分勝手なプレーが目立つがな…」
「まぁ少しずつ仲良くやってきゃーいいんだよ!な?」
「綱海くんは楽観的すぎです」
「ふっ…みやこは相変わらず手厳しいな」
「へーへー!能天気で悪かったな」


綱海くんも風丸くんも、勿論あいつを除くほかのみんなは努力家で、日々練習にがんばっている。わたしはそんなみんなを応援したい、手助けしたい気持ちでイナズマキャラバンに引き続いて日本代表合宿に参加したのだ。そうじゃなかったら、サッカーなんて捨ててしまっていたに違いない。サッカーはわたしにとって、あの人を思い出させる枷。結局逃れることは出来なかったけれど、未だにサッカーボールを見る度に泣きそうになる。いまは何処にいるんだろう。ここにはいない、わたしにサッカーを与えた人を思い出して、また少し視界が揺らんだ。

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