「照美くん。わたし、幸せすぎて死んじゃいそうだわ」
「そんな死なら大歓迎だよ」


がばりと起き上がり、直前までの夢を思い返すと言いようがなく不愉快であった。もやもやした感情が喉元まで上がってきて気持ちが悪い。夢は深層心理の現れだとも、記憶の整理だとも言われる。どちらにせよ今のわたしの不快感を更に上乗せするだけだ。こんなことをよりにもよってあいつに言う日なんて、今までもこれからも決して訪れないのだから。もちろん願望もこれっぽっちもない。


「顔色が優れないね。悪い夢でも見たのかい?」


朝会って開口一番にそれ。何故わかるのだろう、わたしはわかりやすいのだろうか、悩むわたしを嘲笑うかのように「そう顔に書いてあるよ」と優雅に微笑む。朝からむかつく男だ。


「誰かさんが夢にまで出て来たら最低な気分になるに決まってるじゃない」
「…僕が君の夢に?」
「ええ、そーよ。おかげで朝からとっても不快な気持ちに…」


そこでわたしは言葉を止めてしまった。だって、笑ってる。アフロくんはいつものように余裕こいた優雅な微笑みじゃなくて、年相応のあどけない笑顔を見せていた。どきりと高鳴る心臓が疎ましい。こんなやつにわたしは何をときめいているんだ。


「でも本当に大丈夫かい?呼吸も荒いし体調が優れないんじゃ…」
「うるさい、ほっとい…、て」


急に身体の軸がぐらりとぶれた。割れるような頭の痛みと相俟って、立っていられなくなる。


「危ない!」


暗闇の中、わたしは誰かに抱き抱えられていた。両親はこんなに小さくない。友達はこんなに逞しくない。じゃあ誰が?わかりきっている答えに辿り着きたくなくて、遠回りをするのはわたしのだめな癖だった。アフロくんは、わたしを救ってくれるだろうか。そうやって、楽な方向に逃げようとするのも悪い癖だから。

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