「アフロくん」


わたしが声を掛けると、彼は驚いた様子で振り返った。信じられないものでも見るかの如く、見開いた大きな紅い瞳。少し失礼だ。わたしはその驚愕も見ない振りをして、彼にタオルを差し出す。


「おつかれさま、はい」
「一体どういう風の吹きまわしだい?君から僕に話しかけるなんて」
「別に、タオルが余ったから。他意なんかないからね」
「ははっ…どうもありがとう」


何が可笑しいのか、アフロくんは隠そうともしないでくすくす笑う。何となく不愉快だ。理由もないのに笑われてしまっては立つ瀬がない。わたしがじろりと睨みつけると、アフロくんそれは楽しそうに笑った。苛々する、消えてほしい。なのに、少しでも繋がっていたい。相反する想いが鬩ぎ合う。こんなのわたしらしくない。


「しねばいいのに」
「僕が、かい?」
「わたし、あなたが嫌い」
「そう、僕は好きだよ」
「…意味わかんない」


わからないのはわたし自身だ。その他大勢の人間と同じように、アフロくんなんてどうでもよかったはずなのに、気づけば彼を求めている。本当のことを言うと、わたしは本気で死にたいなんて思ったこと一度もない。ただ、誰かに止めてほしいだけ。必要としてくれる存在を渇望しているだけ。興味のないそぶりは、つまらない自分を隠しておきたいから。人と関わりたくないのは、いつかの喪失を恐れているから。どうしようもなく愚かだ。わたしも、あなたも。


「練習再開するよ」
「あ、うん…」
「…報われないね」
「え?」
「いいや、何でもない。ほら、お行き」


だからわたしは知らない。彼の真意も、わたしの気持ちも。

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