目を開けると、人肌の温もりと小さな寝息が満たす世界がわたしを包み込んだ。二、三度瞬きをすると、ゆっくりとその全貌が明らかになってゆく。真っ白なシーツ、絹糸のような柔らかい髪、温かな手の触感。ようやっと覚醒したわたしの隣にいたのは、外ならぬアフロくんだった。ご丁寧にわたしの手をしっかり握ってくれたまま熟睡しているようだ。くすりと微笑んでしまいそうになって、慌てて頬を引き締める。こんな人に弱いところは見せられない。


「アフロくん、起きてる?」
「ん、…ああ、気がついたかい?風邪と栄養失調だって。君のことだから餓死でも試みたのかもしれないけど、そんな確率の低い自殺方法はおすすめしないね」


アフロくんは起きぬけのくせに、わたしの至らなさをすらすらと弁じ立てる。今回は別に図ったことではなかった。そういえば最近、食事をろくに摂取していない気もしたけれど。何だか苛々する。不快な気持ちを抑えられずに、アフロくんの繋がったままの手を放そうとした。それなのに、彼の体温は離れてくれない。


「…アフロくん、離して」
「せっかくだし、もう少しこのままでもいいんじゃないかい?」
「いやよ、離して」


助けてよ。離してよ。わたし、どんどん汚くなっちゃう。いや、違う。汚いのはわたしの方で、まっさらに美しいアフロくんを少しずつ汚染していくのだ。もうわたしは以前のわたしではない。アフロくんの優しさも慈しみも温かさもすべて受け入れられるような気がした。わたしはこの人を手放したくない。


「照美くん、星が見えるところに行こう」


キャラバンの上を指して、わたしは静かな声でそう言った。にっこりと微笑むその姿は、やはりわたしの天使なのかもしれない。

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