「ふぁ…いま、なんじ?」


眠たい瞼を擦りつつ手探りで見つけ出した携帯を開くと、ディスプレイに映し出される11:10の表示。一瞬まだ夜か、と安心して眠りに就こうとするが、カーテンの隙間から漏れ出づる光がそうはさせてはくれない。今日は月曜日。高校生にとっては事実上、一週間の始まりだ。うわ、完璧遅刻じゃん。どうしてお母さんは起こしてくれなかったのだ、と理不尽な怒りが沸き上がるが、多分何度も声を掛けてくれたのだと思う。起きなかったのは自分だ。つまり責任は私にある。とは言っても、実のところ朝が弱い私の遅刻は珍しいことではなく、よって同じクラスの次屋や神崎からは「またかよ(笑)」という趣旨のメールがホームルームの時間帯に届いていた。ただでさえ授業中は爆睡なんだから、先生の話ぐらい真面目に聞けよ。こいつらは放っておいていいとして、残る一通のメールと同じ名前が続く着信履歴に私は頭を抱えていた。休憩時間に入る度に律儀に電話を掛け続けて下さったことがわかる。今日は仮病でも何でも使って休もう!思い立ったが吉日、もう一度寝転び布団に包まる私の耳を聞き慣れたブラック★ロックシューターの軽快な音がノックする。いつかカラオケで神崎がふざけて替え歌して以来、彼の着信は特別にこれに設定していた。どうしよう、出たら確実に怒鳴られる。でもたとえ出なくても後で怒られるだけだ。私は半ばやけくそに、世話焼きの幼なじみからの電話を取った。


「…おはよー」
「おめぇの家では真っ昼間でもおはようなのか?」
「やだな作ちゃん!私まだ起きたばっかなんだから、朝に決まってるんだよ」
「時計を見ろ」
「わーもうお昼だぁ!」
「寝坊にも程があんだろ!」


びりびりと作ちゃんの大声が鼓膜を振るわせる。電話越しに怒鳴らないでよ、窘めると誰のせいだとまた叫ばれた。作ちゃんはクラスで電話を掛けたんじゃないのかな。周りの人への配慮というものが足りなすぎやしないか。


「まーまー怒らないでよ。私今日は休「今から来いよ」…え?」


適当に切り上げて寝ようとしたら、作ちゃんに先に制されてしまった。だってもう昼前なのに。今さら学校に行くなんて、とても面倒だ。生憎私は真面目な作ちゃんと違って皆勤賞など端から狙ってはいない。遅刻してる時点で既に駄目なんだけど。


「今から行ってどうするの」
「は?来いよ」
「明日はちゃんと起きて行くからさー今日はいいじゃんもう」
「だめだ!」
「なんで!?」


思わずこちらまで声を荒げてしまった。お隣りさんに聞こえていたらと思うと恥ずかしい。作ちゃんはあーとかうーとか声を漏らしながら、言葉を濁す。時間を確認すると、もうすぐ次の授業の開始時刻になるところだ。さっさと電話を切り上げてやらなくちゃ。


「作ちゃん授業始まるでしょ?もう私のことはいいから…」
「…俺が、笑に会いたいんだよ…」
「へ」


そこで作ちゃんからの電話は途切れた。固まったままの私の手から携帯が滑り落ちるのも構ってられない。聞き取るのも難しい小さな声で、あんな可愛いこと言うなんて反則だ。今頃顔を真っ赤にしているだろう作ちゃんの顔が目に浮かぶ。次の時間は食満先生だから、きっと生暖かい視線を向けられるに違いない。私は携帯を閉じて、コンポの電源を入れる。あれだけ文句をつけておきながら、パジャマのボタンに手を掛ける私は思ったよりも作ちゃんに惚れているらしい。








「おはよーございます」
「堂々と遅刻とはいい度胸だな…松原?」
「すみませーん」
「松原!遅かったな!」
「よっ、松原」
「おはよ、神崎、次屋」


たわいもない挨拶の下に隠されたにやにやという擬音がよく似合う揶揄するような笑み。こいつらみんな、しねばいいのに。


「作ちゃん、おはよ」
「遅ぇんだよ、ばか」
「ごめんね。私、作ちゃんに会うためだけに来ちゃった」


だけど作ちゃんの照れを隠そうと眉を寄せた笑顔があまりに格好良いので、これに免じて許してあげよう。いや、ヒューヒューうるさいから神崎だけは殴ろうか。




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -