誉さんはとてもずるい。私が誉さん、つまりは次期家元にとって相応しい淑女になるために、有名私立女子校で教養と礼儀を身につける傍ら、お花にお茶にお箏に日本舞踊を習い、その上毎日の炊事洗濯を託けられているというのに、彼は占星術を学ぶために星月学園に進み、おまけに高校三年間を弓道に費やしている。ただ本家の跡取り息子だからというだけで、ここまでの自由が許されるなんて理不尽だ。私に与えられる自由と言えば、課題を文字通り必死で片付けてから寝る前のほんの少しの間、何をするでもなくぼんやりと夜空を眺めることだけ。それすらも最近はあの星狂いの許婚のおかげで、心休まるものではなくなった。星を見ると、あの水色の髪が、偽善めいたあの笑顔が、頭に浮かんでは消えていく。それは私の心をどうしようもなく落胆させるのだ。数える程しか会ったことのない誉さんのために、私の一生はある。そんな下らない人生は、あの輝く星々に比べて何と見劣りすることか。それでも私は逃げ出すことなど、投げ出すことなどできない。ここを捨てたところで、この箱庭に閉じ込められてきた私に行く宛などないのだから。広大な夜空を仰ぎながら、私は長く嘆息した。ちょうどその瞬間、闇のカーテンの合間を縫うように、一筋の光がきらめきながら墜ちていく。あれは、流れ星。心の中で三回願い事を唱えれば願いが叶う、とかつてあの人は言っていた。私もそれに倣い、胸の前で手を組み、神に祈りを捧げる聖職者のようにそっと祈る。


(いつか、人並みの幸せを手に入れられますように)


本当は、あんな迷信全く信じていない。だからこんな戯れ言を願えるのだ。私が私である以上、運命は生まれたときに決まっている。一目惚れから始まる恋も、互いを慈しみ合う愛も無縁のものに過ぎない。人並みの幸せ、そんな幻想はとうの昔に捨てた。親の示す路を歩き、世継ぎを孕み、誉さまと添い遂げる。それが私、九条あやめの宿命。理解していたはずなのに、何処までも続く空の下、私という脆弱な存在意義はひどくちっぽけで惨めだった。

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