喩えるなら、青龍と白虎の睨み合い。窓を通ってさんさんと降り注ぐ陽光や、心地良いそよ風とは対照的にこの本屋の空気は最悪だった。二人の青年が互いに射殺せそうなぐらい鋭い視線を送り合う様を、もう5分は見せられている。先に口火を切ったのは食満くんだった。


「時代錯誤の鍛練バカでもファッション雑誌なんて読むんだな」


それを受けた潮江くんも負けじと反論する。


「お…俺は、たまたま目の前にあったから手に取ってみただけであって、こんな軟弱な本買うつもりなどないぞ!」
「へー…の割には読み耽ってたようだったけどな」
「ばかもん!んなわけあるか!」
「認めろよ、文次郎」
「な…、何をだ?」
「"モテる男になる五十のヒケツ"…ぷっ」
「食満留三郎ー!!」


顔を真っ赤にして怒る潮江くんとは対照的に、食満くんは漫画雑誌に目を落としながら涼しい顔で言い返す。口喧嘩は意外にも食満くんの方が何枚も上手らしい。現に潮江くんは言葉に詰まって、ぐうの音も出ないといった感じだ。…しかし食満くんが持ってるのはヤングジャンプで、つまり水着姿の女性が表紙で微笑んでいて、何だかすごく…。いいや、何も言うまい。むっつりに見える、なんて言葉は胸の奥に閉まっておいた。


「…田中、何で笑ってんだよ」


食満くんの胡乱な目がわたしをじっと見る。あれ、失礼なこと考えてたのばれたのだろうか。しかし言われて気付いたけれど、わたしの頬は緩んでいた。潮江くんも怒りを瞬時に冷まして、不思議そうに小首を捻る。ちょっと、可愛いじゃないか、潮江くん。


「だって、二人見てたら、おかしくって…」


ありのままを告げると「「はあ!?」」二人の声がハモった。普段は文武両道で、人に厳しく自分に厳しくをモットーとする潮江くんと、後輩の面倒見の良さには定評のある、雑学王な食満くん。二人とも周りとは少し違う、独特なオーラがあって近寄り難かった。そんな二人が子供のように感情を剥き出しにして言い争う様子は、なかなか微笑ましいものがある。何て言うか年相応な姿っていうか。うん、意外に似た者同士なんだよね。


「いつもそうやってたら二人とも可愛いのに」


何の悪気もなしに笑いかけると、二人は頬をうっすら朱に染めた。そして同時に、


「「可愛いなんて言われても嬉しくない!!」」


と不満げに、しかし顔だけは何故かにやつかせて叫んだ。ほんとに可愛いなあ。あれ、こういうの何て言うんだっけ。



あ、ツンデレ?
「「断じて違う!」」

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