「雨、止まないね」
「おー…」
「蒸し暑いし、髪うねるし、出掛けらんないし、さいあく」
「おー…」

ベッドに寝転んだまま生返事ばかりの三之助にあたしの不快指数は更に上昇。ガラステーブルにべたりと上半身をくっつけながら、もう一度溜息を吐いた。せっかくのお休みなのに、三之助の部屋の広い窓から見えるのはざーざーうるさい雨音だけ。久々のデートだと意気込んで着てきた白のコットンワンピースは雨に当たったところが濡れて変色してて、気分が下がる。巻いてきた髪も湿気で生き返った本来の癖に負けてちょっと崩れてしまった。何よりも嫌なのはじめじめしたこの暑さ。彼氏の前で汗掻きたい女の子なんて世界中探してもいないだろう。あたしも勿論大多数の一人だ。室内でだらだら汗を流す彼女、振られる要素満載じゃんか。


「三之助ークーラー!」
「おー…や、だめ」
「いまオッケー出しかけたじゃん!ケチ!」
「俺ケチだもん」


だもんとか大の男が言っても可愛くないからね?そんな口尖らせてもダメだから。あたしは三之助に頼るのを諦めて自力でリモコンを探す。あ、三之助を挟んだ枕の上にある。あたしから離れたとこにわざわざ置いとくとか本当にケチすぎる。あたしはいそいそ体を起こして、ベッドまで膝で擦り歩いた。立ち上がらないのは暑さでふらふらするからだ。三之助はちろりとあたしの顔を見て、ふいと背けた。


「リモコン、貸してよ」
「だめだってば」
「なんで」
「あー…今エコの時代?じゃん。お前エコバッグ使えってうるさいくせにクーラーはがんがん使うって矛盾してるだろ」
「うっ…痛いとこを」
「ほら団扇なら貸してやるから。扇げ扇げ」


そう言って三之助は町内会の抽選番号付きの団扇を差し出す。この高度文明社会において人力だなんて…!しかし三之助の言い分は正しい。正しいから反論できない。仕方なくぱたぱた扇いでみても、生温い空気を掻き回すだけで何の解決にもならなかった。ギブミー、クーラー。


「もういい!勝手に付けるから」


あたしは団扇を投げ捨てた。ベッドの縁に膝立ちになり、三之助の向こう側にある白く小さいそれに手を伸ばす。と、届かない…もうちょっと…!


「お前さぁ…誘ってんの?」


けだるい三之助のぼやきが聞こえて、それから強い力で引っ張られる。たどり着いた先は三之助のがっちりした胸板で、突然の展開で一気に顔に熱が集まった。暑いのは三之助も同じなようで、少し湿った黒のTシャツからは一段と三之助の匂いがする。うだるような室内の暑さと三之助の体温で頭がおかしくなりそうだ。


「三之助、あついよ」
「………」
「三之助ってばぁ…」


押し付けられてるせいで呼吸もろくに出来ない。それなのに身体は密着するからどんどん体感温度は上がっていく。ん、もう限界。全体重を三之助に預けると、部屋の上の方でピッと電子音が鳴った。それと同時にブーンと稼動音。あたしにはそれが天からの福音のように感じられた。まだ少し温いけれど、上からあたしたちの元に異質な冷たい空気が流れてくる。


「ありがと、三之助!」


やっとクーラーを作動させてくれた喜びで頭がいっぱいになって、ここが何処だとか自分の置かれてる状況も忘れて三之助の細い身体に抱き着く。にやりと厭らしく笑う気配。あ、まずいかも。そう思った次の瞬間には、あたしの世界は反転していた。見えるのは天井と、したり顔の彼氏さん。


「暑いんですけど」
「クーラー入れたじゃん」
「そうじゃなくって」
「暑そうにしてる顔、何かむらむらしてクる」
「ちょっ…んっ」


事に及ぼうとする三之助を制止しようとした両手は片手で縫い止められ、おまけに口も塞がれる。しっとりした三之助のもう片方の手がワンピースの中に侵入したとき、あたしは敗北を悟った。


「これから熱くなるからクーラー入れてやったんだよ」


結局暑いのには変わりないじゃんか。三之助の思う通りに進むのが嫌で抱いた不満は、それからの熱でどろどろに溶けていった。


メルトダウン


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