「優しさは時に誰かを傷つける。月並みな言葉だけど、本当にそうだと思わない?」
「しゅぼ…」
「ごめん、スボミーにはわかんないよね。でも…ごめんね」


そうやって、わたしは出来るだけ優しくスボミーの少し裂けてしまった蕾を撫でる。すべてわたしが悪かったのだ。ろくに力もないくせに、小さな女の子にせがまれて、中途半端な正義感を振りかざして、結局育ち盛りのスボミーを傷つけてしまった。スボミーは人間の感情に敏感なポケモンだ。愛情を込めて育てれば、その気持ちに呼応して進化してくれるらしい。こんな風に自分の身勝手に付き合わせて怪我をさせたわたしには、到底縁のない話かもしれないけれど。何とかギンガ団は撃退して、女の子はお父さんと再会出来たけれど、わたしの心は晴れないままだった。ポケモンセンターに向かう足も速まる。スボミーは女の子、傷が残るようなことがあってはならないから。


「スボミー」
「しゅぼ…?」
「わたしのことはいくら嫌いになってもいいから、人間そのものを嫌いにならないでね。わたしみたいな考え無しの馬鹿もいるけど、優しい人もいるんだから」
「しゅぼ!しゅぼ!」
「慰めてくれるの?…大丈夫、スボミーのこと大事にしてくれる人のところにちゃんと送ったげるよ」


わたしはポケモンセンターに着いたら、だれかのパソコンに繋いで、スボミーを彼、いや彼女かもしれないけど、とにかくその人の元に送るつもりだった。わたしにはスボミーを育てる資格はない。このままわたしのとこにいたら、スボミーは幸せになれないと思う。最初にナナカマド博士から受け取ったナエトルがボールの中で暴れたのか、腰のボールがかたかた揺れた。ナエトルは同じくさタイプだからかスボミーと仲が良かったみたいだ。別れを感知して、淋しがってるのかもしれない。本当に、ポケモンは人間の何十倍も感受性に富んでいる。


「ナエトル、責めるならわたしにしてね」


喧嘩っ早くどこかの幼なじみのようにせっかちな一面があるナエトルをそっと牽制すると、更にボールの揺れが激しくなった。今にも自力で飛び出してきそうな勢いだ。仕方がないなあ、小さく溜息を漏らした瞬間、腕の中にいたスボミーがぴょんと飛び降りた。満身創痍のはずなのに、しっかりと小さな体を張ってわたしを一心に見つめる。そのつぶらな瞳は潤んできらきらと光っていた。


「しゅぼ!しゅぼ!」
「どうしたの?スボミー」
「…しゅぼー…」


スボミーは地面を蹴って、わたしの足元に駆け寄った。そのままわたしの脚にもたれ掛かり、すりすりと頬の辺りを擦り合わせる。その表情は切なそうに歪んでいた。もしかして、別れを惜しんでくれるのだろうか。


「スボミー、寂しいの?」
「しゅぼー!」
「わたしと、離れたくないの?」
「しゅぼしゅぼ!」
「わたし、と、一緒に、いてくれるの?」
「しゅぼ!」


スボミーはわたしの問い掛けに、何度も蕾の部分を上下に振る。わたしの涙腺は図らずも緩んでしまった。わたしの涙がスボミーの体に当たると、スボミーはまばゆい光に包まれる。瞬きの次の瞬間、スボミーはロゼリアに進化していた。蕾は立派な花を咲かせ、あどけなかった姿は今や、一人前の女性のように魅惑的な色香を放っている。信じられなくてぼけーっとするわたしを、ナエトルが叩き起こしてくれた。


「スボミー…、こんなダメトレーナーのわたしのこと、信頼して、くれてたんだね…」


美しく微笑んで頷くロゼリアにはスボミーの面影もどこか感じられて、わたしはもう一度泣いてしまった。蚊帳の外にされたナエトルが、再び暴れるまであと十秒。




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勢いでやった。
後悔はしていない。

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テーマ「人外ファンタジー」
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