「…立向居のばか!」


わたしは自分の部屋で一人、誰もいない壁に向かって叫んでみた。勿論返ってくる言葉があるはずもない。狭い部屋で反響した声は虚しくわたしの鼓膜を震わせた。ふーと息を吐いて、ベッドに投げ付けた携帯をもう一度開く。これで最後だとセンターに問い合わせても、新着メールはありません。現在時刻は午後11時50分。もう少しでわたしの誕生日は終わってしまう。今日一日が楽しくなかったか、と訊かれれば嘘になる。女友達は0時ぴったりにメールをくれ、学校に行けば色んな人が口々におめでとうと言ってくれた。プレゼントも貰った、ケーキも食べた。足りないのは、立向居だけ。そもそも宇宙人と対決に行っていた頃ならいざ知らず、今はあいつも普通に学校に通ってるはずだ。それなのに今日は一度も会っていない。学年が違うと言ってもそれほど大きな学校ではないし、どこかで会ってもおかしくないのに。そこではた、と気付く。立向居にとっては今日は特別な日ではないんじゃないだろうか?わたしの誕生日なんて知らないかもしれない。そういえばそんな話をしたことはない。なんだ、特別なことがあるかもって期待してたのはわたしだけか。急に、一日中待ち続けてた自分が恥ずかしくなった。もういいや、寝てしまおう。明日もし会っても、何にも無かった顔して普通に話そう。ただ生まれてきた日ってだけじゃないか。それよりもっと特別な記念日をこれから作ることもできるはず。前向きに諦めたところで電気を消して、布団に潜り込む。すぐにやって来る眠気にわたしの図太さを確信した。よし、おやすみなさい。

ピピピピピピピピッ

うわ、びっくりした。色気のない着信音が響き渡り、わたしは完全に覚醒する。いい感じで眠れそうだったのに…不満を呟きながら携帯を開いたら飛び込んでくる立向居の名前。急いで出た。


「先輩?」
「なに、こんな時間に!今日を何の日だと思ってんの?」
「先輩の誕生日ですよね。おめでとうございます」
「そう!誕生日!って…え?」
「いま、23時59分ですよ」
「え、…うん、そうだね」
「これで僕が先輩に最後におめでとうって言った人間ですね」
「まあ…そうだけど」
「最初に言うなんて普通すぎてつまらないので、こんな形で先輩の特別になってみました。今日一日やきもきしたでしょう?」
「なっ…!」
「先輩は素直でわかりやすくて可愛いですね」
「せ、先輩をからかわない!」
「はいはいすみません。明日からも“仲良く”してくださいね」


朝練が早いので失礼しますおやすみなさい。わたしの返事も聞かないで、憎たらしい後輩は電話を切った。ナメられてるのはわかってても、先程の“特別“の余韻がまだ残っている。わたしが甘いから付け上がる、とサッカー部の誰かが言っていた。だけどしょうがないじゃないか。惚れた弱みには勝てないのだから。







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むぎちゃんお誕生日記念



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