「好きって言ったらどうする?」
「は?」


何の変哲もない帰り道だった。いや、何の、と言うには少々語弊がある。高校入学以来あまり話さなくなった幼なじみの李紗が、珍しいことに隣を歩いていた。お互い帰宅部で帰る時間は同じはずなのに、今まで偶然か意図的か出くわしたことはなかった。しかし幼なじみという間柄、下校途中の信号で目が合ったら一緒に帰るのが普通だろう。いや、普通であってほしいだけだ。僕が一緒に帰ろうかと誘ったのも、ただの幼なじみであるが故の行為だと、李紗には思っていてほしい。僕はいまだ、一歩踏み出す勇気を持ててはいないから。久しぶりだといっても、同中のやつらの話や高校の授業のこと、共通の話題は尽きないもので、何とか沈黙は免れていた。そんな中、不意に立ち止まった李紗が、さっきまでとは違うトーンでぽつりと呟いたのが冒頭の言葉だ。僕の足は竦む。まだ、まだ、だめだ。


「ふふっ…なーんてね。びっくりした?」
「…そんな嘘に引っかかるわけないだろ。相変わらず李紗は頭が弱いんだから」


兵ちゃん辛辣ー!なんてけらけら笑いながら、必死にごまかす。また茶化してしまった。せっかく久しぶりに兵太夫と話す機会が舞い降りたというのに、こうやって上辺をなぞるような会話しかできない。兵太夫は、高校に入っていきなり背も高くなって、クールだなんて騒がれるようになって、遠い存在になってしまった。ぱっつんのくせに。わたしはと言えば、冴えないし頭も悪いし運動音痴だし、いいとこなんて全くない。兵太夫から声を掛けてくれた辺り、嫌われてはいないのだろうけど。それでもやっぱり、好きだなんて言えない、よ。わたしと兵太夫じゃ、住む世界が違いすぎる。


「で、どうなの?」
「…え、なにが?」
「だから…李紗でも彼氏とかいるわけ?」


どうしても気になっていたことを、この口が勝手に尋ねていた。照れ隠しのように付け足した捻くれが我ながら憎らしい。どうしてもっと素直になれないんだろうか。僕の質問に顔を一気に赤くする、その表情も可愛いと内心では思っているのに。幼なじみの贔屓目なくしてもこんなに可愛い李紗だから、いつの間にか彼氏を作ってしまうかもしれない。今はさりげなく三組の男共に牽制をかけることで、その事態は阻止出来ているけど、それもいつまで持つかどうか。


「ど、どーせいませんよ!兵太夫こそモテてるんだから、彼女の一人や二人いるんでしょ?」
「いないよ」
「へ?一人も?」
「普通一人しかいないし。っていうか僕、誰とも付き合ったことないから」
「えー…勿体ない…」
「好きな子以外と付き合ったって意味ないでしょ」
「…へ、兵太夫って好きな子いるんだ」


どうしよう、衝撃的な事実にわたしは上手く反応できない。兵太夫、そういうことに興味ないのかと思ってた。あの兵太夫が好きになるくらいだ、きっと美人で可愛くて胸がおっきい女の子なんだろうな。ちょ、やばい、泣きそうなんだけども。だけどここで泣いたら兵太夫が好きだとばれてしまうから、意地でも泣かない。冷静になれ、落ち着け、李紗!


「別にいいじゃん。李紗こそどうなのさ」
「わたしだって、好きな人くらい、いる、もん…」
「…!へ、え…それは相手が可哀相だね」
「なっ!兵太夫に好かれる人の方が可哀相だし!」


なんだよその恋してる顔。心臓がばくばく煩い。そんなの反則じゃないか。ついつい憎まれ口を叩くと、李紗も負けじと張り合う。そうこうしてるうちに互いの家の前に辿り着いたから、何となく気まずい雰囲気の中、さよならだけ言って玄関に飛び込んだ。ドアに背中を預けたまま、ずるずると座り込む。無意識のうちに、大きな溜息が漏れた。だって李紗、その可哀相なやつは、


「お前だよ。……ばーか」


初恋はなかなか上手くいかないものらしい。



きみはすこしたりないみたい
(勇気だとか、言葉だとか、)

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10000hit記念
幼なじみの兵太夫と
もどかしい恋、でした
少しでもご希望に
添えてたら嬉しいです
リクエスト
ありがとうございました

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