「栄口くんも西浦だったんだね。全然知らなかったよ」
「あ、…俺も、だよ」
「阿部くんは…わたしのことなんか記憶にないか」


満足げに俺に笑いかけたあと、彼女は不意に阿部に話を振る。阿部は先程からの不機嫌を微塵も隠そうともせずに「は?」と短く返事した。普通の女の子ならこれにビビって謝るだろうに、須藤はまた一層笑みを深めただけだった。


「わたしは阿部くん、知ってたよ」
「そりゃ、どーも」
「元希さんが教えてくれたから」
「は?」
「あ、いけない。わたしもう帰らなくちゃ」
「まったなー須藤!」
「うん、またね。野球部のみなさんもさようなら」


須藤の小さくなる背中を見送ってから、阿部は田島にあいつは誰だと問い詰めた。同じ中学だったのにそれはないだろう、と思う傍ら、あれは本当に須藤なのかと疑う気持ちもある。田島は何を勘違いしたのか、ニシシと下世話な笑い顔で口を開いた。


「俺らのクラスの須藤ほのかだよ。話してるとバカっぽいけどめっちゃ頭イーんだ!」
「美人じゃないけど愛嬌ある顔だし、性格もいいし、結構他のクラスのやつらにも人気だぜ?」
「そういえば!栄口とはどんな関係なのさ?」


水谷の悪気のない笑顔が俺に迫ってくる。彼女をあの日の須藤ほのかと同化していいのか、俺にはわからない。だけど黙ると余計怪しまれるので、ありのままの事実だけを答えた。


「同中だったよ。話したこと全然ないけど。阿部もそうだろ?」
「…いたか?あんなやつ」
「阿部ひでぇー!」


そのまま話の流れは阿部への非難に移っていく。よかった、深く突っ込まれなくて。ごめんね、だけど俺だって言いたいぐらいだよ。あんな須藤は知らないって。あんな、幸せそうに笑う須藤はいなかったって。



「だいじょうぶ?」

―それが君の大丈夫なのか。

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テーマ「人外ファンタジー」
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