事態発覚




たくさんの話をした。先生とこんなに喋るのは、はじめてかもしれない。学校の仕事をしながらも、先生はしっかり話を聞いてくれた。いつのまにか日は暮れていて、先生たちも下校する時間だ。

「さて、そろそろ行こうか」
「あっ、すみません長居して。わたしも帰ります」
「うん……あのね」

鞄を持って、立ち上がると、先生がすこし気まずそうな、しかめたような、なんとも言えない顔をした。
どうしたんだろう。わたしは窺うように先生を見る。

「あの、お母さんにね、挨拶、してきたんだよ」
「……はぁ」
「いや、あのね、今日いらしてたから、というより前から保護者会とかでお話させてもらってたんだけど、卒業することだし、あらためてご挨拶……をって思って」

息継ぎもなく先生が言い切る。
えっと、どういうことですか。よく意味がわからずに目をキョロつかせてしまう。挨拶って、わたしのお母さん、だよね? それって。
先生は意を決したように、わたしに告げた。

「その……君のお母さんに、付き合ってるの、バレてた」
「…………え?」

いきなりのことに言葉がうまくでない。
バレてた? なにが? 付き合っているのが!? それは結構大変だ……いやいや、先生がだいぶ大変なんじゃ! 目を見開く。先生は苦笑いのままだ。

「喪子の嘘はバレてるから、今度からちゃんと正直に連絡させるようお願いしますって。注意されました……ごめんね」

と、いうことは。

「前回泊まったことも……」
「バレてるね」
「……嘘でしょう」

恥ずかしさで頭がパンクしそうだ。
顔を隠して俯く。そんな、お母さん、全部知ってたの。確かに、堺先生の話は何回かしたし、仲の良い先生なんだねって言われてた、けど。気づいてるなんて思ってもみなかった。どうしよう。怒られたり反対されたりはしてないみたいだけど、あっ、合わせる顔がない。グズグズと下を向き無言になってしまったわたしを無視して、先生は話を続ける。

「……それでね、今日はちゃんとしたご挨拶と、許可を取ったから」
「……なんのですか……?」

呆然とするだけのわたしの腕を、先生が掴んだ。
僕言ったよね。静かな部屋に、先生の声が通る。えっ。手を引こうとしても、びくともしない。これは、どういう。

「……卒業祝いでもしようよ」

いつもの笑い顔がやけに陰っているような、真意がわからないような、そんな顔で、わたしは素直にはいと言うことができなかった。
だって。『あとすこしの我慢』その言葉の意味はわかってる。八日前の記憶がまざまざとよみがえって、先生に握られた腕が痛んだ気がした。もう、このまま帰ることはできない。






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