甘い時間




目が覚めると、良い匂いがした。
先生がおはようと笑って、テーブルにホットケーキを置いてくれる。カーテンの隙間からのぞく光りが眩しい。快晴だ。モゾモゾと布団から抜け出し、ソファに座ると、横に毛布があることに気づく。先生、昨日はソファで寝たのかな。申し訳なくって、毛布を握る。先生が不思議そうな顔をしてマグカップを渡してくる。

「すみません、わたしだけ布団で」
「え? ああっ、大丈夫。いいよ」

そう言って先生がこちらにやってくる。
もう着替えてる。早く起きたのかな。渡されたマグカップに口をつける。あれ、なんだか味が違う。昨日より甘い、牛乳がたっぷりのココアを口にしながら、テーブルに置かれたホットケーキと、ヨーグルトの良い匂いに食欲がそそられるのがわかった。

「ごめんね、ココアが昨日でなくなっちゃって」

薄かったら、足してね。と、チョコレートシロップを先生がテーブルに置いて隣に座った。

「チョコレートシロップ……」
「美味しくない?」
「ううん、美味しいです、すごく」

甘い香りに幸せな気分になる。
キレイに四分割されたホットケーキに手をのばす。バターがとろけて、シロップが多くかかったところを口に入れる。ふんわりした食感。美味しい。思わず笑顔になる。幸せ! 先生、料理できるんだとか一瞬思ってすみませんでした。

「美味しいです!」
「それはよかった」

先生はヨーグルトを口に含んでモグモグと食べる。あれだ、ハムスターみたい。ちょっとほっぺたが膨らんでる。なんでヨーグルトでそんなに膨らむんですか、先生。
カチャカチャと食器の音だけが響く室内は、柔らかな空気に包まれていて。
バナナとミカンの入ったヨーグルトは、市販のものなのかわからないけれど、甘くて懐かしい味がした。


***


「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」

食器を片付けると、先生がそろそろ出かけるねと腕章を付けて言った。そうか、先生はパトロールがあるんだ。創立記念日、学校は休みだけど、遊び回る生徒を見に回らないといけないんだよね。大変だなぁ。

「先生たちって大変なんですねえ」
「まぁね〜いろいろあるから」

午後には帰ってくるから、そしたら家まで送ります。先生はそう言って家を出た。
そうだ、お母さんに連絡しなきゃ。『昨日はいきなりでごめん』『何時かわからないけど午後には帰るよ』送信して携帯を閉じる。母子家庭のわたしの家に、母親がいる時間はとてもすくない。朝に顔を合わせて、夜の二十三時を過ぎた頃に帰ってくる。それでも仲は悪くないほうだと思う。話すこともあるし、こうやってメールもする。
 さて。午後までどうして時間をつぶそうかなぁ。
制服は乾いてるけど、さすがに着れないし、あまり表をうろつくのも。あっ。でも、ココアが切れてたって、先生言ってたよね。買ってきたほうがいいかな。余計なお世話かな。しばらくあれこれと悩んだ末に、わたしは制服のスカートに、先生の上着を借りて着て行くことにした。これなら大丈夫、かな。近くにスーパーがあったよね。支度をして玄関を出た。冬の風が冷たかったけれど、なぜか寒いと感じなかった。






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