はじめて
「はい、万歳して」
ふざけた口調で先生が言う。声は笑っているけど、顔は真剣だ。
スウェットが捲られると、腹部から胸元までが外気に触れた。ブラをお風呂に入ったあとに外したせいで、胸が隠さずに見える。恥ずかしい。先生、電気消してください。腕を上げた状態のわたしは二の腕で顔を隠す。
「やだよ」
「なんでですか」
「もったいないじゃない」
意味がわからない。わたしの言葉を無視して、先生は胸に顔を埋めた。
ひっ。生暖かい舌が鎖骨を這う。先生の手がするりと入ってきて胸を覆った。指が胸を不規則に揉む。変な感じ。舌がどんどんと下るたびにチクリと痛む。キスマークをつけてるんだ。指先が胸の先端に当たり、親指で擦られると、そこはツンと膨らんだ。親指と人差し指でつままれる。短く声が出た。やだ。なんかおかしい。強弱をつけて何度もつままれると息が上がる。やだ、先生、それ。
わたしがそう言ったと同時にあたたかなモノが突起に触れた。吸い付く音がする。甲高い声がこぼれてしまう。先生の舌がそこを往復し、押し潰すように舐めたあとにはちろちろと舌先で舐められて、たまらず肩を捩る。
「気持ちい?」
先生の息がかかるとそれだけで体が震えた。反応した途端に先生がフッと冷たい息を吹き掛けてくる。下くちびるを噛んで声を抑えると、先生がつまらなそうに突起をつまんだ。
口元は笑っているのに、その目は冷たい。ゾクゾクとした、わけのわからない感情がわたしを襲う。
くちびるで突起を挟まれる。くにくにと遊ばれたあと、歯が当たったったことに震えると、またあたたかな舌が触れた。
先生の手がわたしの腹部の横を撫でる。指先でスルスルと触られるとそこから熱を持っていく。
――いきなり、スウェットのズボンを足首まで下げられた。太ももに手がのびる。避けようとしたら、ぐっと右足を持ち上げられ、足を開く体制になってしまった。わたしは思わず意見する。
「せんせっそれ、恥ずかしいです、やめてください」
「……あー、ごめん」
「っやぁ」
謝ったのに続けるってどういうことなんですか。
太ももの内側をゆっくりと撫で回される。わたしの言葉、ちゃんと聞いてくれてるの? 不安になり、ジタバタとすこしもがいてみるけれど、すぐに抑えつけられた。先生、なんかおかしい。ねえ、ねえ、堺先生。わたしが名前を呼ぶと先生が体制を維持したまま耳元に顔を近づけた。なに、どうしたんですか。
「ここ、触られた?」
「だ、誰に、です、か……」
「西島先生」
先生の声が一段低くなった。無言で頷く。
「じゃあ……ここは?」
「やっ」
「……答えて」
先生の指先が下着の真ん中を撫でる。わたしは縦にゆっくりと首を振った。
先生の表情は見えない。ただ、耳に聞こえていた呼吸の音が一瞬、止まった。
「……先生?」
「喪子さん、ちょっと我慢しててね」
顔が離れる。先生が触れていた手の中指を自分の口に入れた。べろりと出した舌で舐めている。細めた目がとてつもなく厭らしく感じて、わたしは見ていられなかった。
目を伏せたと同時に、スッと下着がすこしずらされた。えっ。
「ひ、やぁ、なに、せんせ……」
ぬるついた感覚。先生の指が入ってきた。割れ目をなぞって、つぷっと第一間接までが中に入る。ゆっくりと抜き差しされるとなにかが体からあふれる。ぬるぬるした感触がどんどんと増していく。変だ。
気持ちいいのか、悪いのか、わからない。やだ、先生、どうしたらいいの。先生。答えるように先生がわたしに口づける。指の動きは止まらない。
「……俺のことだけ考えて。全部忘れたほうがいい。お願いだから、忘れて」
息継ぎの間に先生が言う。
耐えられないんだ、好きだから。忘れて。
ひたすらにわたしのくちびるを奪う。
「触らせたくないんだ」
「堺せんせ……」
「ねえ、俺でいっぱいになって」
「……ん、あっ! やっやだ、やだぁ! それっ」
電気が走ったみたいに体が震えた。
下腹部の突起に触れられた途端に、体が言うことを聞かない。撫でられただけなのに。いやいやと首を振るけれど、先生はくちびるを離してはくれない。それどころか、指の動きはさらに激しくなっていく。
クチュ、と水音が鳴る。その大きな音に、羞恥で涙が出た。腰がうねり、恥ずかしさと気持ち良さに目をつぶる。喪子。先生が名前を呼ぶ。答える余裕なんてない。
頭がぼうっとして、足がしびれてきた。またくちびるが重なる。もっと、もっと。もっと先生が欲しい。おかしくなりそう。先生の指が一層強く、そこを触った。わたしの足の指がギュッと縮まる。
「ふぁ、あっ、ああ……」
「ん……」
くちびるが離れる。指が往復すると余韻でビクビクとまた体が震える。声が抑えられない。先生、もう。先生の腕に手をのばすと、指が音を立てて抜けた。
息が荒い。先生も、わたしも。疲れて体が重く、うごかない。頭が一瞬、真っ白になった。そういう知識が全くなかったわけじゃない。だけど、実際になるとただびっくりするしかなかった。はじめての経験に茫然としていると、先生が強く一度だけわたしを抱きしめてから体を離した。
「……今日はおしまい。もう寝よう」
「えっ……」
「うん?」
いきなりのことに、思わず声が出た。恥ずかしい。これじゃあ、なにか期待してたみたいだ。なんでもないですと答えるけれど、なんだか居心地が悪い。わたしだけ。わたしだけこんな感じで、なんというか……ええと……。とにかく、なんだか居心地がとても悪い。気恥ずかしい。
先生はそんなわたしの気持ちに気がついたのか、苦笑いをして「なんか変なこと考えてない?」と言った。ばれた。顔がひどく紅潮する。
「……避妊具、ないから」
「……あっ……」
恥ずかしそうに先生がつぶやいた。そうだ。基本的なことに気がついて、わたしはさらに赤くなった。恥ずかしい。スッゴく恥ずかしい。わたしは姿を隠すように布団に潜り込んだ。頭上から先生の声が降ってくる。ううっ……。そうだよね。バカだわたしは。
「本当はもっと――」
え? 布団から顔を出してわたしが聞き返すと、先生は黙り込んでしまった。本当は?
「……はやく寝てください」
「先生は?」
「ボクは、まだ起きてる」
だから、ゆっくり寝て。
大きな手がわたしの頭を撫でた。魔法にかかったみたいにまぶたが閉じる。あたたかい。先生のてのひら。この瞬間が一生続けばいいのに。また明日。先生の声が聞こえた気がした。
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