ハプニング

それから私は、マネージャーの仕事と称して松岡くんに話し掛け続けた。毎回嫌な顔をするけれど、松岡くんは少しずつ私の話しを聞くようになった。いや嘘、全く聞いてくれないけど私がしつこく話してるだけ。これはもう、完璧に嫌われてるなぁ。


「梓、溜息ついたら幸せ逃げるよ」
「現在進行形で幸せじゃないから溜息ついてるんだよ…」


友人は笑って頑張れ!と笑う。ありがと、と笑い返して私は仕事に戻った。
プールサイドに置かれた用具を仕舞うために歩いていると、部員が笑いながら近付いてきていて。私はそれに気付いていなくて。後ろを向きながら歩いていた部員は私にぶつかり、私はつるりと足が滑って後ろに倒れる。あ、やばい気がする。


「やべ、」

「梓!」


どぼーん、と後ろに倒れた先は水の中で。泳げるはずの私は、突然のことにパニックになって溺れていた。あぁ情けないや、っていうか、恥ずかしい。動こうとしたら、ぴんと足がつって口をあけてしまった。水が口にはいる、息ができない。


「…あの馬鹿…!」
「あ、松岡くん!?」


もう部活は終わりの時間で、凛はシャワーを済ませて寮に帰るところだった。が、プールに忘れ物をしたことを思い出し、面倒くさそうに戻ってきた。
そのとき、自分の周りをうろちょろする面倒くさい女、梓が部員とぶつかりプールに落ちた。前、水泳をしていたと聞かされたから泳げるだろうし大丈夫だろ、と思っていた。が、梓は一向にあがってこない。

凛は舌打ちをしてジャージの上を脱ぐとその場に脱ぎ捨て、プールに飛び込んだ。今は、水着じゃないなど気にしてはいられなかった。



ぺちぺちと頬を叩いても梓は反応しない。あぁ、人口呼吸しかないか。凛はまた眉を寄せて梓の顎をあげて気道を確保した。

ごくり、唾を飲む。こんなでもこいつは女だ。男に人口呼吸といえどキスするようなものだ。こいつの友達は、ともう一人を見るも泣きながら梓の名前を呼ぶだけ。梓を落とした部員も泣きそうになりながら凛と梓を見ていた。

あぁ、仕方ない。あとでなにを言われても俺はしらねぇ。

目を閉じる梓に、唇を落とした。


ハプニング


20131018
人口呼吸についてもっとちゃんと調べるべきだった…。