距離が遠くて仕方ない

松岡くんに、話し掛けたりはしなかった。ただ、自分の席から彼を見ていただけだ。


「梓、どしたの」
「え、あ…うぅんなんでもないの」

「いま、松岡くん見てたでしょ」


ば、と友人を見ればにやりと意地悪い笑みを浮かべていて。がんばれ、と肩を叩かれた。頑張れったって、無理だよ馬鹿。


「ね、彼氏がね、水泳部のマネージャーにならないかって言ってるんだけど、一緒になろうよ」
「…私パス」


私一人じゃ心細いもん、ね?と泣き落としにかかる友人に、泣きたいのはこっちだと思った。
マネージャーになったら、松岡くんと顔を合わせることになるじゃないか。友人はそれが狙いらしいけど嬉しくない。というか無理だ、嫌われてるんだから私。


「無理、私嫌われてるし」
「え?」
「話し掛けんなって言われたから」


あれ、あれ?
なんだろうおかしいな、なんで涙でてくるんだろ。やだ、やだやだ止まって。ほら友達困ってんじゃん、泣き止め。


「あぁぁ、梓泣かないで…!
大丈夫、大丈夫だから、ね?」


うぅ、なんて情けない声をだしてひとしきり泣いた。あ、なんかすっきりしたかもしれないや。


「…行こ」
「どこに?」
「水泳部、マネージャーになる」


私、なんで怯えてたんだろう。そもそも、私は彼のこと好きじゃないし、気になってただけだし。…変わらないか。

でも、話し掛けるなって言われても理由わからないし、それは私の勝手だと思う。マネージャーの件も聞けば友人の彼氏の頼みらしいし、彼も何も言えないだろう。うん、大丈夫。負けるな私。




「今日からマネージャーとして参加してくれる2人だ。迷惑かけんなよー」

「よろしくお願いします」


2人で頭を下げる。ぱちぱちと疎らは拍手を受けて顔をあげると、松岡くんと目が合う。なにしてんだ、なんでいるんだ、とでも言いたげで驚いた顔をしてる。けどすぐに眉を寄せて目をそらされた。しつこい女って、思われたかな。


「松岡くん」
「……」
「松岡くんってば」
「話し掛けんなっつったよな」


彼の声は低い。それはもう低い。なんていうか、声だけでやられそうだ。でも、負けない。


「部長が呼んでたよ」


舌打ちをして、松岡くんは部長のところまで歩いていった。


距離が遠くて
仕方ない


20131018
凜ちゃん中編を勝手に始める。この間打った短編の続きになります。