趣味がバレる
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朝、皆を送り出すのが日課になりそうな金曜日。って言っても、来週からは普通に仕事があるんだけど。

今日は、家に誰もいないようだから、思い切り叫ぶことができる。本当は、声を仕事をするのが夢だったけど、成功する自信なんてなかった私は、趣味で歌い、演技をする。


第6衝突
趣味がバレる




「くぁ…ねむ…」



朝からシーツを絵麻と干した。静かなリビングのソファにごろりと寝そべって窓から入る日差しに目を閉じた。あぁ、今日は暖かい。


「さて、そろそろ録り始めますか」


インターネットカラオケマン、とネットで言われている人達がいる。その中に自分も入る。私は何を言われても構わない人間だし、趣味でやっているだけだから特に思うこともない。プロじゃないから気楽である。


「さ、て…今日は前に言われてたあの曲録っちゃわなきゃ」


椿も梓も、私が夢見た世界にいる。羨ましいと思う、けど私は今のネットで活動して交流するのも悪くないと思っている。ネットでは少々知名度があるらしい。(誹謗中傷もあるけど、特に気にしたこともない。だって趣味だもの)


録音を終えて、5階の冷蔵庫にしまっておいたアイスでも取りに行こうと扉を開けると、そこには。


「…朝倉、風斗?」
「今歌ってたの、アンタ?」

「え、」
「だから、今の歌はアンタかって聞いてんの」


朝倉風斗の言葉に頷くと、彼は「へぇ」とにやりと笑い私の腕を掴む。困惑。


「ねぇ、アンタにちょっと頼みがあるんだけど」
「…イヤ」

「は?」


心底信じられないと言った顔。初対面である、さらには私の見た目からして年上だとわかるだろう。芸能人だからなのか知らないけれど上から目線なのが気に食わない。大人げない?違うよこの子の礼儀がなってないだけ。


「アンタ、僕のこと知ってるんでしょ?」
「芸能人の朝倉風斗くんは知ってる。
でも、ここにいるってことは朝日奈家の人でしょ?朝日奈風斗くんは知らないわ」

「…アンタ、ミワが言ってた新しい兄弟?」
「ここにいるのだから、そうだと思うのが普通じゃないの?」

「…性格悪…」
「どっちがよ」


じとり、互いに睨み合う。礼儀って大事でしょう、外面大事でしょう。(初対面で食ってかかった私が言える言葉じゃないけど)


「…朝日奈風斗、よろしく」
「日向…先日から朝日奈美優になりました。よろしくね、風斗くん」

「アンタ…姉さんに頼みたいことがあるんだけど」


諦めたのか、素直に名乗り言葉のトーンが変わった風斗くんににこりと笑う。それに少し驚いた様子の彼は、目を見開いたけれどすぐに戻ってから話し出した。次のコンサートで女性コーラスが必要だけれど風斗くんの声に合う人がいないらしい。
私には本業があるし色々と面倒くさそうだから丁重にお断りした。

それからリビングにいって、次の仕事まで時間があるらしい風斗くんに捕まり、色々と話した。歌のこと、仕事のこと、家族のこと。生き生きとしている風斗くんの顔、笑顔はテレビで見るのと違って自然で作ってはいなかった。


「いつもそういう風に笑えばいいのに」
「やだよ、だってさぁファンはキャーキャー五月蝿いし、ろくに出歩けないし
歌うのは楽しいって言えば楽しいけどそれだけだし」

「もったいない、せっかくイケメンなのに」
「なに、もしかして姉さんって僕のファンだったりした?」


得意げににやりとする彼にデコピンして笑う。子供に興味ないのと言えば口を尖らせた。年相応の顔に、なんだかおかしくなった。


「あ、やばいそろそろ時間だ」
「頑張っておいで」

「わかってるよ
そうだ姉さん、携帯番号教えてよ」


兄弟になったんだからさ、と楽しそうに笑う風斗くんに電話番号を言えばすぐにワンコールしてきて、登録しといてよ!と階段を駆け上がりながら言った。じゃあね、と風斗くんは5階から去り、リビングはしんと静まる。


「…懐かれた?」


うわぁ…兄弟になったのだと認めなきゃいけないってわかってはいるけど、覆しようも、抗いようもないとわかってるけど、あまり親しくなるつもりはなかったのに…。


「恐るべし15歳アイドル…」


今はお昼、ぐうと鳴ったお腹を押さえて、勝手に使っていいと言われたので冷蔵庫から卵を出す。簡単に卵かけご飯にしよう。ぺろりと平らげて、飲み物を持ち部屋に戻る。さぁ、次は台詞でも録ろうかな。

趣味の時間は本当に楽しい。時間を忘れてしまうほど。どれだけ歌ったかな、喋ったかな。


「へぇ、やっぱり諦めてなかったんだ?」


ヘッドフォンを取られて、振り向く。この声は、椿だ。


「椿、もしかして聞いてたの?」
「梓と一緒にねー」

「ごめんね、やめようって言ったんだけど椿が聞かなくて」


眉を下げる梓に罪はない。そして、いつか聞かれてしまうと思っていたし、時間を忘れていた私も悪いのだ。


「今からでも目指せば?」
「いいよ、私には向いてないし」
「プロで一緒にやってる人より、美優とのほうが演りやすいんだけどなぁ、俺」


つまんない、と言った椿の頭を叩いた梓。ごめんね、とまた謝られて私は首をふる。現役の椿に言われて嬉しい気持ちはあるけど、私は趣味でいいの。


「あ、そうそう
美優って仕事なにしてるの?」
「え、看護師だけど」
「いつから始めんの?」

「月曜から新しい職場だよ、○○病院」
「科は?」

「小児科」

うっそまじで?と声をあげた椿に疑問符。梓はくすりと笑う。


「月曜になれば、わかるはずだよ」


梓の言葉に、私はどうも納得はいかなかったけれど頷いた。月曜日が、なんとなく怖い。


20130718

あれ、こんなはずじゃ。
全然絡んでないや…(遠い目)
そして誤解しないで欲しいのですが、某動画サイトで歌う人達を馬鹿にしているわけではありません。私も歌う人間の一人です(私を知る人はいませんが)。
彼女ならばこう思う、という一つの意見に過ぎません。…ただの言い訳ですね。
わかってくださる方がいれば幸いです


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