同居生活が始まる
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少しだけ、心が軽くなった気がした。
けれど、やっぱり素直になれなくて「家族」になるにはまだ、早い気がして。

もう少し、知ってからでもいいかな、なんて思ったりして。


第5衝突
同居生活が始まる



朝、昨日の肩と足は少し痛いけれどシャワーを浴びることができたので楽だった。(私の嫌な気持ちも全部洗い流すことができたらよかったのに)

朝日奈家のお兄さん組は揃ってごめんと謝罪をしてきたけれど、私の態度が悪かったのだ。言う時間もなかっただろう。…謝らなくても良かったのに、と思う。

現時刻は5時少し前。
今日は木曜日で、私は来週の月曜日から仕事、なので今日は嬉しい休日だ。
きっとまだ誰も起きていないだろうから、服を着替えてエレベーターに乗り込む。絵麻は今日も学校だし…お弁当を作らなきゃ。ついでに朝ご飯も作ってあげよう。

でも、


「絵麻に作って他の人に作らないのは性格悪すぎか…」


関わるつもりはない。
自分が言った言葉だ、責任は持たなきゃ。でも、そこまで性格悪い女にもなりたくない、矛盾。


「何人分…?
絵麻…雅臣さん、右京さん、要さん、椿に梓、昴くんに侑介くん、弥くん…9人か」


9人分なんて作ったことない。ご飯何合炊くの…お味噌汁は?指折りで数えて愕然とした。多過ぎる。


冷蔵庫を勝手に開けさせてもらい、少し物色。


「あ、鮭ある。お豆腐にわかめ、卵もたくさん…無難に、和食?」


きょろきょろと見回せば、黄色とピンクのエプロン、隣には赤いエプロンがあった。赤いエプロンの上には美優さんと私の名前。もしかして、私用、?


「……つけよう、かなぁ」


ウサギがプリントされたエプロンをつけて、整頓されたキッチンを動き回る。包丁の切れもいいし、全部綺麗。調味料も揃っているし、男しかいないのに、なんだか感動した。


「あ、ご飯は炊いてあるんだ…」


0時間、きっと炊きたてだろうそれは、少し時間を空けてからまぜればいい。…鮭を焼いて、お味噌汁作って…それができたら卵焼きでも作ろうか。時計を見れば6時前。もしかしたら誰か起きてくるかもしれない、少しだけ、急ごうかな。

野菜室にはほうれん草があって、晩御飯に使うのかとも思ったけれど、胡麻和えにでもすれば緑が増える。見栄えも、いい。


ほうれん草の茎をさっと水であらってから、沸かした鍋に放り込む。ダシをとる時間はなさそうだから、お味噌汁は粉粒のダシを使わせてもらう。味をみて、わかめの塩を洗い流し、それを切り豆腐も切る。それを鍋に流し込もうとしたとき、カタン、と音が鳴りはっとしてその方を見た。


「おはようございます、美優さん」
「…右京さん、」

「もしかして、朝食を作ってくださっていたんですか?」


昨日の今日だ。気まずくてこくりと頷くと右京さんはくすりと笑って私に近付くと、ぽんぽんと頭を優しく叩いた。


「エプロン、つけてくれたんですね」
「…名前があったので」

「よく似合っていますよ」


ふんわりと笑う右京さん。優しい人なんだと、わかる。(年上苦手だけどさ、)


「すみません、冷蔵庫を勝手に開けさせていただきました」
「貴女も朝日奈家の一員なんですから、自由に開けてください」


そういうと、右京さんは戸棚に足を進めて皿を出してくれた。何を作っているか、わかったようだ。


「私が作ろうと思っていたものを作ってくださったんですね」
「え、」

「今朝は鮭に味噌汁、卵焼きにお浸しの予定でしたから」


冷蔵庫にはまだ他にもたくさん食材はあった。けれど目にとまったのが今作っているものだ。偶然、すごいなぁ。


「いつもは私一人で全員分作っているので、起きてきて食事の匂いがすると…嬉しいものですね」
「そう、ですか」

「美優さんは、料理がお得意のようなので…これからも手伝っていただけますか?」


罰が悪くて、小さく頷いた。なにこれ、私ただの子供じゃないか。恥ずかしい、


「昨日の火傷は、痛みますか?」
「…まだ少し痛みますが、跡も残らないようですし大丈夫です」


ならよかった、と右京さんは笑う。ほうれん草が茹であがり、水で少し洗い一口サイズに切ると、使い終わった鍋を右京さんは洗ってくれていた。


「おはよう、ございます」

「絵麻さん、おはようございます」
「右京さん、お姉ちゃん」

「おはよ、絵麻」

「あの、なにか手伝うことは、」


私と右京さんを見て驚いた顔をしたが、絵麻はすぐに手伝うと申し出た。もうほとんど準備は終わっているので、絵麻にはご飯をよそってもらうことにし、右京さんは出来たおかずをテーブルに運び、私は最後の卵焼きを焼き上げた。


「お姉ちゃんのご飯、久しぶり…」
「いつも絵麻に作ってもらってたもんね。絵麻の美味しいから私は嬉しいけど」

「お姉ちゃんには敵わないよ?」


首を傾げて言う絵麻に、右京さんは優しく笑っていた。さてそろそろ絵麻意外に来るかなぁと思って、なんだかまた気まずい気がするんだけどどうしようなんて思いながら、後片付けをしていた。


「おはよう、弥ちゃん」
「おはよぉおねーちゃん」


まだ眠そうな弥くんが目を擦りながら階段をおりてきた。目線を合わせて絵麻はにこりと笑い、一緒に食べれるのが嬉しいと弥くんも笑った。


「あっ、美優おねーちゃんもいる!」
「おはよう、弥くん」

「美優おねーちゃん、おはよぉ!
あ、うさたんのエプロンだぁ!」


ニコニコと笑みを浮かべる弥くん、可愛い。ぎゅっと抱き着かれて頭を撫でると弥くんは嬉しそうにきゃっきゃと笑って私から離れた。


「おはよう、ございます」

「…おはよう」


昨日のこともあり侑介くんは気まずそうで、昴くんと目が合うと顔を真っ赤に染めた。


「あっれー昴クーン?顔真っ赤だけどどうしたのー?」
「椿、からかうのは昴が可哀相だよ」

「あ、わかった。昨日の美優のあの姿思い出したんだ?」


にやり、意地悪い笑みを浮かべた椿に、違う!と昴くんは声をあげる。からかう椿を梓はべしりと叩いてやめなよ、と言うと椿ははいはい、とまだ笑みを浮かべたまま席についた。


「今日の朝食は美優さんが作ってくれたんですよ」

「へぇ、楽しみー」
「おねーちゃん、すっごく美味しいよっ」

「ちょ、食べるの早いって」


弥くんはもりもり食べて美味しい美味しいと言ってくれる。うん、将来いい男になるよこの子。
絵麻も、美味しいと笑顔になって、他の人も口に運ぶ。


「あ、ほんとに美味い」
「オネーチャン、ありがとね」

「…椿、お姉ちゃんって呼ばないで」
「だってオネーチャンでしょ?」
「椿、嫌がることはしないの」


梓に言われると素直にやめてくれるから、梓は私にとって救世主のようだ。はぁ、と溜息をついた梓と目が合って「美味しいよ」と笑みをくれた。


なんだろう。
こんなにたくさんの人に食べてもらったことがなかったから、新鮮な気持ちだ。恥ずかしいのと、嬉しい、のと。やっぱり気まずいのと。


「姉さん」
「…え、あ、私?」


侑介くんが私を見て、姉さんと言う。私はきょとんとしてしまい自分を指さすと、侑介くんは頷く。


「めちゃくちゃ、美味い…です」
「あり、がと」


照れているのだろうか、侑介くんの顔が赤い。釣られて、なぜか私も顔が熱くなる。昴くんにも姉さんと呼ばれて、なんだかくすぐったい気持ちになったのは、きっと。

(うぅん気のせいって、思いたい)


20130713

ながい…!



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