朝日奈家
bookmark


「私達、家族になれるかしら」


美和さんの言葉が、頭から離れない。


第1衝突
朝日奈家



会食のとき、美和さんは初めて会ったときに見せることがなかった、不安そうな顔をしていた。絵麻は「はい」と吃りながらであったが頷いていた。本当に、絵麻は物分かりがいい良い子だ。自慢の妹である。

私は、笑ってごまかすことしかできなかった。申し訳ないと思う、でも。まだ、まだ納得できないんだ。男なんて、どうせ皆同じなんだから。


「お姉ちゃん?」
「、絵麻」

「ぼうっとしてたけど…何かあったの?」
「ん?あぁ、なんでもないの、気にしないでいいから」


なら、いいんだけど…と絵麻はやんわりと微笑む。


5月22日、今日私達姉妹は朝日奈家へ向かう。サンライズレジデンスという美和さんオーナーのマンションに、私の車で向かっているところだ。ちょうど信号待ちをしていたからぼうっとしてしまった。…先月のことを考えたからだ。


「あ、あそこだよ」
「おっけー、私車停めてくるから前で待ってて」

「はぁい」


今日、私は仕事が休みである。…というか、院長の紹介で近場の病院に異動することになったから、来週からお世話になることになっており、2、3日は家にいることができるので有り難い。絵麻一人で向かわせることにならなくて本当によかった。越すことになったサンライズレジデンスの近くにある小児科に勤務することになったのだが、元々子供は好きだし、前の勤務していたところも小児科だったから有り難い。小さな腕に注射を射すのは苦手だけれど。

車から降りた絵麻を見てから、美優はサンライズレジデンスの駐車場に車を停めた。事前に停める場所は美和さんに聞いていたから迷うこともなく停めることができて良かった。


「絵麻ぁ、?」
「お姉ちゃん
荷物、もう来ちゃったみたい」


マンション前に行くと、一人の男性と、少年が絵麻に向かいあっていた。
ふんわり柔らかい笑みを浮かべた男性に、ぴたりと止まってしまう。何だろう、なんか、見たこと、あるような。


「美優さん、で間違いないですか?」
「…はい、日向美優です。今日から、よろしく、お願いします」


本当はお願いなんぞしたくはなかった。けれど人当たりの良さそうな男性…長男の雅臣さんと、末っ子の弥くんに、ぺこりと頭を下げて絵麻を連れてマンション内に入る。緊張した、というより泣きたくなった。
同じ年から上の年齢の人、特に苦手なんだよなぁ。


妹ちゃん1、2と書かれた部屋の前、私は1で絵麻が2だ。溜息しかでない。絵麻と階が違うなんて…危ない、絶対に危ない。…絵麻は少しだけワクワクしているようであぁ可愛いなんて思ったけれど、これから始まる生活のことを考えると憂鬱でしかないのだ。


荷物を確認したら5階に来てほしいと長男、雅臣さんに言われたので5階に向かっていた。一度5階でとまったから、他の兄弟がのぼったのだろう。


「こ、こんにちは」


あ、絵麻の声だ。
チーン、という音とともにエレベーターの扉が開いて広がる空間に驚きながら下を覗いてみると、あろうことか絵麻を抱きしめている男が、一人。


「ちょ、なにを…!」


手摺りから身を乗り出すと絵麻を抱きしめる男の後ろから黒髪の男がピンク色の服をきた男の頭を殴る。よ、かった。


「ごめんね、椿が…。
僕は梓。よろしくね」


その声に、言葉に。
私は動けなくなる。嘘、嘘だ、嘘だ。


「いてぇよ梓ぁ…」


どうして、苗字でわからなかった。そうだ、美和さんも、どこか懐かしいような、覚えがあるような感じがしていたんだ。


「あ、お姉ちゃん」
「、絵麻…」


くるり、振り向いた梓と椿は、私を見て目を見開いた。


「…美優?」
「え、どうしてここに、え?もしかして、日向って…」


目をそらしてしまった私を、絵麻は心配そうに見てきたけれど、大丈夫だからと笑えば少しだけホッとした様子だった。


(ありえない…)



20130711

お知り合いのようです(←)


prev|next

[戻る]