家族旅行
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絶好の海日和。
今日は、朝日奈家の旅行の日である。

行きから絵麻は嬉しそうに笑っていて、要さんや椿、風斗くんに構われている。絵麻かわいい、さすが私の妹。

第10衝突
家族旅行


ビーチに着いた。照り付ける太陽の日差しに目を細める。


「そういえば、妹ちゃん達はお揃いのワンピースなんだね」
「はい、お姉ちゃんが買ってくれて…」

「二人共似合ってるよ。…そうだ。今度、オニーサンが買った服、着てくれる?」
「着ません、受け取りません」


かたいなぁ、と要さんは笑う。けどかたいとかそういうことじゃない。要さんが軽すぎるんだと思う。…私だけじゃない、よね?


「美優ー!」
「なに、椿」
「こっち来いってー、酒あるからさー!」
「お姉ちゃん、行ってきなよ、私は大丈夫だから、ね?」

「…要さん、絵麻にべたべたしないでくださいよ?」
「妹ちゃんヤキモチ?」
「ち が い ま す」


くすりと笑った要さんを無視して、私は仕方なしに椿と梓、昴くんと右京さん、雅臣さんのほうへ行く。行くと、はいと梓からお酒を渡されて冷えきった缶を持った。


「こんな時間からお酒飲むのいつぶりだろ…」
「確かに、最近忙しかったし休みもなかったもんね」

「私より雅臣さんのほうが疲れてるじゃないですか…急患大変だったって聞きましたけど、」


まぁね、と苦笑する雅臣さん。やっぱり、雅臣さんは職場が同じだから話しやすいと思う。それに右京さんも、料理を教えてもらうようになってからよく話す。私得意のアレンジ料理を教えたとき、右京さんは嬉しそうに笑ってくれて、なんだか私まで嬉しくなったのが記憶に新しい。

…と、あんなに兄弟と認めないとか言っていたくせに、と言われそうだけれど。朝日奈兄弟は強引だと言うことが改めてわかった。誰が、ではなくほぼ全員だ。


雅臣さんは職場一緒で話すし、朝も一緒に出勤することが多い。帰りに買い物するときは付き合ってくれて荷物も持ってくれる。私が突き放そうとしても、彼は優しい笑顔なのに妙に逆らえない何かがあって、つい頼んでしまうというか。
あの日、ストーカーにあって、キスされた日から、雅臣さんが1番話しかけてくるようになった、と思う。


右京さんは料理…というか家事全般で話しをする。明日の献立とか、買い出しとか。掃除洗濯についても話すし、仕事についてもよく話す。
私が食事を抜こうとしたら、鬼のように怖い。言葉が刺々しいとかではなく、オーラが。貴女は私の大事な妹なんですから、倒れたりしたら云々。
…お母さんか!と突っ込みたくなったことが数回。


要さんは、突き放しても突き放しても近付いてきて、嘘臭い甘い言葉を吐く。わかっていても顔が熱くなるのは仕方ないと思いたい。
なにげなく隣に座って頭を撫でられたり、仕事で嫌なことがあったらただ静かに聞いてくれるのが、有り難いと、思う。…セクハラが多いけど、スキンシップが多いけど。


椿は今まで同様、私が忘れたいアイツの話しを、なんの悪びれもなく突然ふってくるし、あそこ行こう、ここ行こうと振り回されることがしょっちゅうだ。行かないと言っても絵麻も行くからと言われたら行かなきゃならないし。妹離れ?するはずないじゃない。
でも、辛いとき笑顔で盛り上げてくれるところは、本当に感謝してる。笑わせてくれるから、嬉しく思う。


梓は椿と一緒にいることが多いから、椿が何かしたり私が嫌だと思うことを椿が言ったらフォローしてくれるから有り難いし、助かっていてあまり邪険には扱いたくないと思う。
けど、梓は結構強引で、嫌だと言っても笑顔で「はい行くよ」なんて手を引かれて連れ出されることもしょっちゅうだから困る。二人きりで話すことも、梓とは意外に多いと思う。


琉生くんは、美容師をしてるからついこの間少しだけ髪を切ってもらった。アレンジもうまくて、ほんわかしてる彼と会話が噛み合わないことがあるけど、一緒にいて悪い気はしないし正直落ち着く。
疲れ果てて入口で寝ていたときはさすがに焦ったけど、しょっちゅう見かけるから少し慣れた。辛いことを辛いと言わなかったり、ほかの兄弟に比べて繊細そうだから少し心配だったりする。
美優ちゃん、と笑顔で呼ばれて次には髪アレンジさせて?って言われるのも、さすがに一ヶ月以上続いたから慣れた。


昴くんは、初日のタオル事件があってから少し気まずかったけれど、姉さんと呼ばれるのが慣れてきた。彼がトレーニング中に遭遇したときはなにもいわずに荷物を持ってくれたり、高いところから物を取りたい時はなにもいわないけど取ってくれたりと優しい。
絵麻のこと好きなんだなってわかりやすいところも可愛いとは思う。…あげないけど。


祈織くんは、あまり話したことがないけれど、花壇で花を見ていたら水をあげているところを見つけて一緒に水やりをするようになった。大人しくてなにを考えているかわからないと思うけど、彼はすごく優しい。
あと、時折見せる陰りのある顔は、とても気になる、というか心配になる。要さんとの間には聞いちゃいけない何かがある。
この前街で見かけたとき、一緒に買い物をしてランチしたけど、物腰柔らかで頭も良くて、とうイメージだ。けど、この間勉強を聞かれたときは驚いた。


侑介は、ゲームのことや勉強のことでよく話しをするようになった。中間と期末考査前は顔を真っ青にして勉強教えてくださいって頭を下げられて、断るに断れなくて見てあげたら、姉さんとよく話し掛けられるようになり。私は、彼のことを1番兄弟として見ていると思う。頼られるってこんなに嬉しいんだって、思えた。
すぐ照れるから可愛くて、私もからかうようになったし、1番仲はいいと思う。私が侑介、って呼び捨てにしたら向こうも敬語をやめて普通に話してくれるようになった。


風斗は、初めて会ったときからよくメールくるし電話くるし、着拒しようと思うくらいだからやめてほしいと思うけど。
仕事の愚痴とか、音楽のこととか話している彼は年相応に見えて、可愛いと思う。ただ、変にませているから驚くくらいの色気があったりして困る。…いや、風斗に手を出すとかだされるとかじゃないけれど。
私の趣味を理解してくれて、相談に乗ってくれるから、有り難いな、とは思う。


弥は、可愛い。本当に可愛い。お姉ちゃんと抱き着かれて、笑顔を見ると安心する。泣きそうな顔してると心配になるし、お願いされたら聞いてしまう。これが母性とかそういったアレなんだろうなと思う。
一緒にお風呂入ろう?って言われたら、小学5年生にもなったら嫌じゃないのかなって思ったけど弥とはほぼ一緒に入ってるし、一緒に寝ることもしばしば。
やっぱり、美和さんと一緒にいれないことが多いから、淋しいのかな、なんて。


一ヶ月以上一緒にいたら情がわいた、というのが正しいのかもしれない。皆優しくて、意地を張っているのが馬鹿らしくなるくらい、あたたかい人達で。ほだされた、というか、なんというか。


「美優、」
「…うわぁ…」
「だ、大丈夫かい?」
「はい、なんとか」


ケラケラと笑う椿を、殴ってもいいだろうか。プルを開けたら吹き出してきたビール。買ったばかりのワンピースはびしゃびしゃで、してやったり顔の椿を私の代わりに梓が叩いてくれた。


「中、水着?」
「あぁうん、一応」
「じゃあ、水着になっておいで」

「はい、いってきます」


前途多難な家族旅行の始まり。

20131101
久々に打ったらこんなに長くなりました。


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