ショッピング「え、旅行…ですか?」
聞けば、朝日奈家は毎年、家族で国内にある美和さん所有のプライベートビーチに数日行くらしい。今年はいつにしようか、とほぼ全員が揃って食事していると、右京さんが言った。
第9衝突
ショッピング「僕と美優さんの休みは…この日、だね。この時期だからと思って事前に有給とっておいたんだ」
「あ、その日は俺達も仕事ない」
「梓が、この辺りに行くだろうってマネージャーに言ってたみたいなんだ」
「そうですか…では今年はこの日にしましょう
絵麻さん、美優さんも、構いませんか?」
「は、はいっ」
「私…私達は遠慮しておきます
皆さんで楽しんできてください」
にっこり、笑って言ってみせた。家族になって少し経った、慣れてきたし義弟になった彼らとはそれなりに話をするようになったし、話し掛けられても嫌悪もなくなった。
(年下の子達が私に色々聞いてきたり甘えてきたりするのが、なんだか可愛いと思いはじめたのは内緒)
「お姉ちゃん、」
「…これだけ良くしてもらって、まだ家族と認めていない、なんて言えませんけど…。
私は海が好きじゃないので行きません。そして男の中に絵麻一人で行かせるのは反対」
「じゃあ美優も一緒に来ればいいじゃん?家族なんだし、美優もいないとつまんないって!」
「そうだね、美優は泳げないわけでもないんだし…彼女も行きたそうだよ?」
椿と梓に言われて、絵麻を見ると、申し訳なさそうに私を見ていた。あぁまた私の我が儘じゃないか。
「絵麻、行きたい?」
「…うん、家族旅行なんて、ずっと、してないから」
そうだった、絵麻と私で旅行、なんてこともできなくて、パパは仕事で行けたのなんて絵麻が幼いときに数回だけ。
そうだよね、絵麻はもう彼らを家族として認めていて、家族行事を楽しみにしてるんだ。
「…わかった」
「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に来てくれるの?」
「行くわ、私も。
でも肌焼きたくないから絶対水着着ない、でもいい?」
絵麻に問うと、うん、と嬉しそうに笑うので、乗り気ではないけれど行くと決めたのは正確なのだろう。
「わぁっ、じゃあボク、おねーちゃんとお城作りたーいっ」
「弥くん、私そういうの苦手だよ?」
「んー…じゃあトンネル!」
きゃっきゃと燥ぐ弥くんに、最近の私はメロメロ…というか逆らえないというか。いうことをきいてしまう。可愛い、10歳に見えない可愛い。
「楽しみだね、妹ちゃん」
「はいっ」
要さんに肩を抱かれながら、絵麻はきらきらと輝く笑顔で答える。ほら、いま昴くんと侑介くんの顔が真っ赤になったよ。…どっちにもまだあげないんだから。
「でも美優、暑いから一応水着は持っていったほうがいいよ?」
「う、やっぱり?」
梓に言われて、渋々ながら水着を持っていくことになった。けれど、私水着持ってないんだよなぁ。
この話が終わって数日後、仕事が休みだったのでちょうど休みがあった友人と、そして絵麻とショッピングモールに着ていた。
「絵麻ちゃん成長したわねー
っと、あ!美優あの水着とかどう?」
「く、黒ぉ…?!
絶対嫌、下に短パンはくやつじゃなきゃ嫌だよ私」
せっかくの海なんだから、多少の露出はいるのよ!と力説されて、私と絵麻は若干引いていた。
絵麻と友人が一つの水着を持ってきたので、それを試着してみる。
「ね、短パンは?」
「ないわよ、あんた無駄にスタイルいいんだから、胸もお腹も出さなきゃもったいない」
「これ着るの…?」
「いいから早く着る!」
友人の声に渋々服を脱いで渡された水着を着る。待ってこれ隠すの一切ないじゃん。黒じゃん、水着だけどほぼ下着みたいじゃん。
「二人とも着たー?」
「はい、着ましたっ」
「じゃあ絵麻ちゃん出といでー」
しゃ、とカーテンの音と共に絵麻は出たらしい。みたい、けど出たくない。
「美優は?着れたんでしょ?」
「…着れたけど、お腹隠したい、足も」
「…出てきなさい!」
しゃ、と友人が勢いよくカーテンを開ける。…逃げたい、隠れたい。
「………わぁっ」
「…………」
「な、なに。
いいたいことあるなら言いなさいよね!」
「きぃぃい!ほんっと、無駄にスタイルいいんだから!なにその胸は!どうしてこんなに腰細いのに胸がでかいの!!」
「わ、ちょ、やめ…!こら!」
がしり、捕まれた胸が痛い。絵麻は呆気に取られていたがすぐにオロオロしだす。友人から離れて、絵麻を見る。うん、可愛い、可愛すぎるさすが私の妹、天使である。
「これ、昴くんと侑介くんやばいんじゃ…」
「お姉ちゃん?」
「ん?なんでもないなんでもない
可愛いよ絵麻、それにしちゃう?」
「うん、私もこれ、気に入っちゃった」
「おっけ、じゃあお姉ちゃん違うの見るから、もうちょっと付き合ってね」
「は?!アンタはこれで決定よ!」
「やだよ、こんな露出すごいの」
「絵麻ちゃんからも言ってやって!
こんだけスタイルいいのに隠すのはもったいないって!」
「絵麻になに言わせる気よ!」
「あ、あの…私も、お姉ちゃんはそういう水着がいいなって、似合ってるもん」
「う………、」
絵麻に言われてしまえば、なんていうか、なにも言えなくなる。子犬みたいな目で私を見ないで絵麻。
「…わかったわよ」
絵麻は水着代を雅臣さんに貰ったらしいが、私がカードをきった。一括である。絵麻のためなら安いもんだし、お金だって貯めてあるからこれくらい減ったところで何も変わらない。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「いいのいいの、可愛い絵麻のためだもん
次は、着ていく服でも見ようか?」
「うん、」
友人は、私が黒のビキニを選んだことに喜んでいまだ顔をニヤつかせている。私は絵麻と、色違いのワンピースとシュシュを買った。
友人、絵麻とカフェに入りやっと一息ついて、数日後の海に、憂鬱になった。
「人に身体見せるの嫌いなのに」
「好きな人いたら困るわ」
「ごめんね、やっぱりお姉ちゃん嫌だった…?」
「んー、ん。絵麻が楽しみなら、私も楽しみだよ。
久々の家族旅行だもんね」
「うん…っ」
にっこり、絵麻は可愛らしい笑みを浮かべた。ノックアウトである。やっぱり可愛い、水着のまま彼らの前に出すのはマズイ気がする。
「絵麻、ぜっっっったい、お姉ちゃんから離れちゃ駄目だからね」
「え?」
「あの野獣達の中水着で一人でいたら、とって食われるわよ」
「そんな、私は有り得ないよ
どっちかって言うと、お姉ちゃんのほうが心配だよ…要さんとか、椿さんとか」
「あそこは相手にしないの。無害そうな人といるのが一番」
絵麻はくすりと笑って、お姉ちゃんが要さん達に食べられないように見張るねと言うので、よろしくね、と笑い返した。
付き合ってくれた友人にお礼を言って、別れる。今日は車で来たからマンションまでは車だ。移動が楽。
「楽しみ?」
「うん、すごく」
「そっか。じゃあ目一杯楽しみなさい」
絵麻は天使の如く笑みを浮かべた。そんな絵麻の笑顔を見れて、私は幸せです。
(海は嫌だけどね、本当は。でも絵麻が楽しみなら、私も少しは楽しみにしていなきゃ、水着になるの嫌だけど…、紫外線怖いし日焼けも怖いけど)
20130728
原作の海いく回、のちょっと前らへん…というかその辺りです。
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