男運が悪い私
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まだ素直になれない私は、本当に子供だと思う。本来なら、私が気を使うべきなのに、なのに皆、私が馴染めるように声をかけてくれるのだ。

少しずつ、認めはじめた私。素直に、なれたらいいのに。簡単に変えられない、私の悪いところだ。


第7衝突
男運がない私




「美優ー、それとって」
「…はい」


「美優、ちょっと頼みがあるんだけど」
「…なに?」


「美優さん、味見をお願いできますか?」
「…わかりました」


「妹ちゃん、暇なら一緒に映画でも見に行かない?」
「結構です」


「美優さん、ユウタくんのことでちょっと聞きたいんだけど」
「あぁ、はい。なんでしょう」


「姉さん、髪に埃がついてたよ」
「あ、りがとう…祈織くん」


「美優おねーちゃん、一緒にお風呂はいろうよ!」
「ごめんね弥くん、もう入っちゃった」


「美優ちゃん、髪、いじっても、いい?」
「…私より絵麻の髪のほうがいいと思うよ、琉生くん」


「姉さん、あの、この間は」
「…忘れて、昴くん」


「姉さん、ちょっと、あの、勉強、教えてもらいたいんだけど…」
「……どこ?」


「ねーさん、なんで電話出てくれないのさー」
「…用事ないならかけてこないでよ…」


なんだこれは。



今日は水曜日。
月曜日に職場にいくと、梓が言っていた言葉の意味を理解した。そこには、朝日奈雅臣と書かれたネームを胸元にさした、雅臣さんがいた。え、えぇえええぇ。気まずい。職場にも仮にも兄弟になってしまった人がいるなんて。心休まる時間がないじゃない…!


「日向って、やっぱり美優さんだったんだね」
「は、はは…よろしく、お願いします、朝日奈先生」


たまたま定時で上がれたので、早く病院から離れたいと歩き出したら後ろから声をかけられて雅臣さんに手を引かれて車に乗せられた。私は徒歩と電車で通ってるから、車はうらやましい、なんて。


「これから、都合が合えば一緒に行こうか。僕は車だし、時間短縮にもなるよ」
「え、でも」

「甘えなさいって、言ったよね?」


なぜかそのとき、私は頷いた。雅臣さんの言い方は優しいんだけど、なんか、ちょっと違うというか。怖いと、いうか。
それから…といってもまだ一緒にいって2日だけど、雅臣さんとは結構話すようになった、と思う。不本意だけど。あぁ、あと右京さんも。右京さんは料理が上手いから、教わることが多い。


とまぁ、それは置いといて。
今はなぜ私がこんなに絡まれるか、だ。雅臣さんは仕方ない、入ったばかりの男の子について医師としては聞けるなら聞くべきだし、右京さんも料理についてだからまだわかる。梓が頼み事をしてくるのは珍しいからなんか気になるし、弥くんは小学生だし、可愛いから仕方ないし。祈織くんは親切にゴミをとってくれたから有り難い。

けど、

椿はなんなの、それってなに、指差した先に醤油があったから普通に渡したけど。要さんはぱちんとウインクをして私の肩を抱きながら言ってくるし。昴くんは忘れてくれないし。琉生くんは顔を合わすたびに髪を触らせろ、だし。風斗くんは電話しつこいくせに用事ないけどね、とか言い出すし。侑介くんはなぜかわざわざ私に頼むし…関わりたくないとか言ってるくせにお人よし発動してつい見ちゃうし!(侑介くんは昨日の夜も言ってきたのだ)











「………疲れた」


ばふ、と自室の布団に倒れ込む。やばい疲れた、短時間で男10人と会話とか…!疲れる、やばい身体もつかな。


「お姉ちゃん」
「っ、絵麻!どしたの?」

「なんか、お姉ちゃんと全然話せてないなぁって思って」
「…本当、私絵麻不足だよぉ…癒して絵麻」

「わ、わわっ」


私の部屋に入るとき、絵麻にはノックしなくていいと言ってある。昨日から、朝日奈家の人達はしつこいくらいに私に話し掛けてくるのだ。絵麻にももちろん話し掛けてるけど、私はその比じゃない。


「お姉ちゃん、お疲れ様」
「ありがと、あー…やっぱ絵麻を男の中に放り込むのは嫌ぁ…」

「それを言ったら、私もだよ?
なんだか、お姉ちゃんが皆さんにとられちゃったみたいで…」


眉を下げて笑った絵麻をぎゅっと抱きしめる。ばか、ばかなんだから。絵麻は私の一番大事な、一番の可愛い子なのに。
絵麻と話してるだけで幸せなのに、


「あ、そうそう聞いてよ絵麻」
「なーに?」

「職場に、雅臣さんがいた」
「え…?」


月曜にあったことを話すと、絵麻は目を丸くしていたけど「雅臣さんがいればお姉ちゃんが危ない目にあっても助けてもらえるね」なんて可愛い笑顔で言ったので、お姉ちゃんは倒れそうである、なんてね。


「絵麻、そろそろ部屋に戻りな?」
「うん、わかった。
お姉ちゃん、どこか行くの?」

「ちょっと、野暮用。
あ、あの人達には言わないでよ?」


昔の男を忘れられないままだった私を、励ましてくれた男性に先日(朝日奈家に入る1週間前に)告白されて、今日はその返事をしにいくのだ。まだ、アイツのことを忘れたわけじゃないけど、男は嫌いだけど、その人は、他の人とは違う気がしたから、了承しようと、思う。


「じゃ、いってくるね」
「気をつけてね」


3階で分かれて、私はそのまま1階へ。すぐ近くへ行くだけだから、あまり化粧とかしてないけど(その人にはいつもこれくらいのメイクでしか会ってない)。












「美優さん」
「こんばんは、」

「返事、聞かせてくれるんだよね?」
「…あの、お願い、します」


頭を下げると、その人は嬉しそうに笑った。ぎゅっと抱きしめられて、あぁこれがこの人の香りか、なんて遠くで思っていた。


「ずっと心配だったんだ、あんな男だらけの中で美優さんが生活してるなんて

なにもされていない?もしされてたら、俺がそいつに罰を与えてあげるからね」


ぞくり、背中が粟立つ。
いま、この人はなんて?
柔らかなトーンのまま、この人は私の、


「いま、なんて?」
「君に何かする男には、俺が制裁して…」

「違う、
なんで、私が男だらけの家にいるって、知ってるんですか…?私、貴方に言ってないのに」


その人から私は無理矢理離れた。私の言葉に、その人はにやりと嫌な笑みを浮かべて「君は俺のものになるって決まっていたんだ」と狂気混じりに笑う。

怖い、やばい、


「ほら、こっち来なよ
俺の恋人だろ?離れるのは許さないよ」


一歩一歩、近付いてくる。私も、下がる。どん、と何かにぶつかる背中、逃げられない、やばいと泣きたくなる。


「大丈夫かい、美優さん」
「え…?」


耳元で聞こえたのは、優しい声。ぐっとお腹に腕が回されて、一気に近付く。


「ま、さおみさ」
「彼氏?」

「になる予定でしたが、ストーカー、でした、」


そう、と目を細めてその人を見る雅臣さんはいつもと少しだけ違ってた。


「ごめんね、この子は僕の大事な人だから…君には渡せないんだ」

「美優は、いま俺の告白に答えたんだ俺の恋人なんだ!離せ、俺の美優を離せ!」


狂ったように叫ぶその人。あぁ私やっぱり男運悪い。最低最悪だ…泣きたい。


「実は僕達恋人同士でね、喧嘩してしまって、美優は君のところに逃げようとしただけなんだよ」


雅臣さんの口から出た言葉にぽかんと口を開けたその人は鼻で笑い、じゃあ証拠を見せてみろと言う。付き合っている証拠を見せろだなんて随分子供じみていると思ったけれど、


「美優さん、ごめんね」
「え……………んっ、」


顔にかかる髪を優しく耳にかけられて、頬を撫でると、ゆっくりと顔を近付けてきた雅臣さんは私の唇に、自分の唇を重ねた。


「次美優に近付いたら、警察を呼ぶよ
わかったら、早く去ってくれるかな」


笑う雅臣さん。けれど目は笑ってなどいなかった。ばたばたと走り去るその人の背中を見ながら、私はどうしたらいいかわからなくなる。いま、雅臣さんと、キスしたんだ。

アイツ以外と、初めてのキスだった。


20130719
あれ…いやお兄さん組贔屓だからいいんだけども。ちゅー早すぎやしませんか。
右京さんのターンにしようと思ったんだけど…な、



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