とりあえず、マネージャーが待っているからと私はHE★VENSの楽屋を後にた。

…のだが、


「…なんでついてくるの、ナギ」
「えー?だって詩音と一緒にいたいしっ」

「はぁ…、別に監視しなくても言わないよ。Mスタの、HE★VENSが仕組んだなんて」


なんのこと?とまだシラを切るナギには色々な意味で感心した。そして笑顔が、怖い。


「ていうか本名で呼ばないで」
「いいじゃん、せっかくShiyuの本名知れたんだもん」


彼が良くても私が良くない。もし学園時代の知り合いに会ったらどうするつもりだ。…うわ、無理だ困る。


「嫌なの、やめて」
「……わかったよ、ゴメン」


素直に謝るナギに少しばかり驚いた。ぽかんと口を開けていたらボクだってやり過ぎたら謝るし、と口を尖らせた。その顔は年相応だ。


「あ、そうだShiyuの携帯番号教えて」
「は?やだよ」

「む、ボクの番号知る機会そんなにないんだよ?嫌がるより感謝してよ!」
「ガキに興味ない」


この世界に入って男のアドレスなんて正直いらないのだ。寿さんは学園の先輩でもあるから承諾した。他の男の人は学園での友人達ばかり。新たに加える必要はない。そして子供には興味ないのだ。自分もまだまだ子供だけど。


「HE★VENSに入るんだから、連絡先は知っておかないと困るよ?」


溜息しかでない。
確かにあの時、鳳さんは電話をしていたから移籍の話は現実化しそうだ。レイジング鳳の事務所、勝てるはずがない。社長も判を押すしかなくなるだろう。


「だからホラ!」
「…はいはい、」


仕方なく携帯を差し出すと慣れた手つきでカチカチと携帯を打つナギ。ちなみにこれは仕事用の携帯(ガラケー)さんだ。プライベートはスマホである。


「よし登録っと
んで…これがShiyuの番号ね、登録かんりょーっ」


ニコニコと笑うナギはさながら天使である。(見た目はだけど、見た目だけだけど)裏は天使じゃない悪魔だよ悪魔!


「えっと、とりあえず後でメールするからちゃんと返事してね?」
「気が向いたらね」

「む、Shiyu性格悪いって言われない?」
「言われないねー、私、嫌いな人、興味ない人にだけだから、こういうの」

「…ボクらは嫌いってこと?」
「当たり前でしょ、自分のテレビデビュー潰そうと人達、誰が好きになるのよ。

それに、入りたくもないHE★VENSに入れられることになって、どう好きになれと?」


お子様にはわからないかな?と挑発的な笑みを向けると、ナギは一瞬傷付いた顔をした、と思えば次にはにやりと嫌な笑みを浮かべていた。


「でも、Shiyuはボクらを好きになるし、離れたくないって思うよ」
「その自信はどこからくるの?」

「だって、ボクらはHE★VENSだから。ファンを天国みたいな楽園に連れていってあげるのが仕事でしょ?」


私はファンじゃない、と言えばナギはくすりと笑う。ボクらと一緒にいたらキミはボクらの虜になるよ。と自信たっぷりに宣言したのだ。


「…そう、楽しみにしてる。
入れなきゃ良かったって後悔させてやるから、覚悟しててよね」


瑛一次第かなぁ、それは。と含み笑いをしたナギはばいばぁい、と手を振って元の道を戻って行った。


「Shiyu!」
「榊さん、
…ごめんなさい、」


え?と驚いた榊さん。私は、俯くしかなかった。


携帯情報の交換


(社長も、怒るだろうなぁ)



20130706

ナギ推しの私はナギのターンを入れてしまう。