「今日からHE★VENSって…」
「そう、お前は今日からHE★VENSのメンバーだ」
ドヤ顔で指をさす鳳さんに溜息を吐くのはナギ。馬鹿じゃないの?と言いたそうな顔で鳳さんを見ていたが、ついには口にした。
「…はぁ、馬鹿なの?
ボクはぜーったい嫌だよ
綺羅もでしょ?」
ナギの問い掛けに皇さんは首を振る。え、嫌がると思ったんだけど、
「味方にすれば、敵じゃなくなる」
「………確かに、そうだけど」
「私は嫌です。
男の中に女って…アンタらのファンに叩かれるだけじゃん」
あ、と…思わず素がでてしまった。けれど実際その通りだから。嫌なものは嫌だ。
「それに、事務所の人好きだし。HE★VENSはレイジング事務所所属でしょ、私は違う事務所。はい不可能」
言うと、鳳さんはにやりと笑いお前のマネージャーも一緒に移籍だ、と言ってのけた。頭が痛い。この人はなにもかも自分の思い通りになると思ってるんだろうか。確かもう成人済みのはずだけど…脳内はお子様のようだ。
「マネージャーが一緒に移籍になろうが、HE★VENSに入るつもりはありません」
「強情だな…だが、それがいい
これは決定事項だ。今日から…というのは流石に急すぎるからな、一週間猶予をやろう」
ふん、と鼻を鳴らす鳳さんはレイジング事務所から私とマネージャーを移籍させてほしいと私の事務所に申し出、それの書類云々を一週間で完了させるつもりらしい。
「そして、安心しろ」
「は、」
「お前は男としてHE★VENSに加入する。Shiyuではなく、新たな名前でな」
「じゃあHE★VENSに入ったらShiyuとして活動できないってこと?」
「いや、構わん。
我が事務所に貢献できるような曲を作れるようだからな…HE★VENSとして活動する傍らShiyuとしても活動しろ」
そうすると、休みなんてないじゃない。いや、アイドル活動できるのは幸せすぎるけど、男としてってことは、男装してってことでしょう?男装もして通常のアイドルもしてって…バレたら、どっちにしても私のアイドル人生終わりじゃないか。
「…絶対いや
私は移籍なんかしないし、アンタらに屈したりしない」
三人を睨みつける。ナギはピュウ、と口笛を鳴らし、皇さんは腕を組んで見下ろしている。そして鳳さんは、
「調子に乗るなよ小娘
お前ごとき潰そうと思えば一瞬で消せる
だが…慈悲深いこの俺が、HE★VENSに加入することで許してやると言ってるんだ」
有り難く思え、と高笑いを始めた。この人は精神的にお子様なのか。確かレイジング鳳の息子だもんなぁ。そりゃこうもなる、か。
「移籍はしない、HE★VENSにも入らない」
「…くどい。
決定事項だ、覆せはしない」
かつ、かつ、と踵を鳴らして私の前にくると少し屈んで私の顎を掴み、ぐっと顔を近付けてきた。
「今にお前から、俺達といたいと言わせてやる」
「っ、有り得ない」
「どれだけもつか…楽しみだな」
クク、と悪役さながら笑う鳳さんにゾクリと鳥肌が立った。ちらりとナギは私を横目で見ていたかと思えばカツリ、同じく踵を鳴らして近付いてくる。
「ねぇShiyu」
「、なに」
「Shiyuって、芸名でしょ?名前は?」
言う必要ない、と言えばナギはぴくりと眉をひそめる。けれどにっこりと笑顔を作って、いいじゃん教えて?とアイドルスマイルを披露した。
「拒否するわ」
「むぅ、ほんと強情だね」
「ありがと」
「褒めてない!」
イライラした様子のナギに皇さんもゆっくりと私たちに近付いてきて、
「皇、綺羅」
「え」
「よろしく」
ただ簡潔に言葉を紡ぐ。手を差し出してくれたので慌てて私はその手を掴む。
「結木、詩音
よろしく皇さん」
「…綺羅でいい」
…皇さん、基、綺羅はいい人なのか。
いつの間にか私たちから離れていた鳳さんはどころかに電話をしていた。
「あぁ、Shiyuをうちの事務所に移籍、そして男としてHE★VENSに加入させる
あぁ、彼女のマネージャーも一緒に移籍させてくれ
彼女は事務所の看板になるだろう…移籍の際の金は、高額のほうがいいだろう」
スラスラと言葉を並べる。本気なのはわかっていたが、こんなにも早く行動するなんて。
「HE★VENSとして活動しながら、Shiyuとしても活動させる。あぁ、その方がうちの事務所に利益があるだろう」
行動力
(逃げられない、)20130630
男装ネタにするつもりはなかったんです…変換がまた増えてしまいます。