本番が始まる。一発勝負の生放送。
初出演で失敗したらデビューが台なしになる。できる、できると心で念じながらトークをする。噛まないように、伝えられるように。
「それでは歌ってもらいましょう!」
イントロが流れる。自分が作った歌。歌詞を間違えるはずもない、声も裏返らないでサビまできた。
〜〜♪、
え、あれ…?
ラストのサビ前でイントロが、止まる。音がない、ぶわっと嫌な汗が吹き出す。
カメラを回している人も共演者も、みな困惑している。こんなの、リハーサルじゃなかったし、どうしよう。やばい、やばいやばいやばい…!
けれどこれは生放送、やり直しなんてきかない。どうにか、しなきゃ、歌わなきゃ。
アコースティックギターは手元にある。もともと弾きながら歌っていた。自分で作った曲を弾けないはずがないのだ。
弦を弾いて、音を出す。声をだして紡ぐ。私の、私だけの歌。
〜♪〜♪、
最後に弦を弾き、終えた。ラスサビだけだったから大丈夫だったけれど、生放送が怖いと思った。もう、こんなことがなきゃいい。
観客はこれを演出だと思ったらしく、わぁわぁと大歓声。…よかった、うまくいったんだ。
頭を下げて、ありがとうございましたと声を出すと、カメラには司会者が映る。急いでそこから掃けてトークしていた椅子にゆっくりと戻る。隣には、先ほどの寿さん。
「お疲れちゃん、とんだハプニングだったけどお客さんも喜んでたし万々歳だね」
「…はい、」
椅子に座って、突然力が抜ける。怖かった、怖かった。うまくいったけど、失敗していたときを考えると身体が震えた。
ミュージックスタジオが終わると、榊さんが走ってきて心配そうに顔を歪めていた。聞けば、スタッフさんが間違えて停止を押してしまったらしい。大丈夫だったから、気にしていないと返したけれど本当は、泣き出しそうなくらいだった。
「よく頑張ったわね」
「大丈夫だった?」
「もちろんよ、観客も喜んでいたし、CD、まだ売れるわよ」
にっこり、榊さんは笑う。よかった、榊さんの言葉でやっと成功したと実感した。
さて、今日は社長が晩御飯連れてってくれるって!と喜んでいる榊さん。オリコン1位とテレビ初出演のお祝いだそうだ。
「私、出演した人に挨拶してくる」
「ん、じゃあ私は社長に電話してくるから、終わったら入口にいてね」
「はーい」
榊さんと別れて共演者の人達の楽屋に向かう、皆さん優しくて、さっきのハプニングに頑張ったねと笑ってくれた。
寿さんに挨拶すると、彼はにっこり笑ってくれた。お疲れちゃんと頭をぽんと叩かれて、少しだけ話をした。
早乙女学園の卒業生であること、トキヤくんと音也くんのマスターコース?の先輩であること。今日私が出ることは林檎さんに言われていたこと。シャイニング事務所に入れなかったけれどこうして後輩に会えて嬉しいと言われた。
「ありがとう、ございます寿さん」
「いーのいーの!
っていうか寿さんなんて嶺ちゃん寂しー!…れいちゃんでいいよん」
でも、というと音也くんはれいちゃんって呼んでくれてるから、Shiyuちゃんも呼んでね!とびし、と指を立てて言うものだから、私は頷くしかなかった。
「そうそう、連絡先教えてよ!」
「あ、と…あーすみません、携帯今持ってなくて」
「んじゃあ林檎先輩に聞いてもいい?」
「もちろんです」
にっこり、互いに笑いあって私はれいちゃんさんの楽屋を後にしようと扉に向かった、が
「あ、れいちゃんさん、ST☆RISHの人達にShiyuは同級生って言わないでください」
「…いいけど、なんで?」
「こうしてデビューできましたが、在学中、皆でデビューしようと誓ったんです。でも私、シャイニング事務所には入れなかったから、言いにくくて」
もごもごと口ごもるとれいちゃんさんは、オッケーオッケー!と歯を見せて笑った。
「こうみえてオニーさん口堅いから安心してよ!」
それでは、と今度こそ楽屋を後にする。自分の楽屋に戻ろうと廊下を歩いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ねー、なんなのアレ!
せっかく恥かかせてやろーと思ったのにさぁ!」
「うるさいぞナギ、まだ人がいるかもしれないだろう」
「だってさー、ボクらよりランク上になったからどんだけすごい子かと思ったら、ガチガチの新人って!
あーもうイライラするー!ねぇ綺羅もそう思うでしょ!?
…ほーらぁ!綺羅も頷いてるし!」
どういうこと、
れいちゃんさん
(いまのって、)20130628
序盤から動かしていきます。