彼女は、それからボクを名前で呼ばなくなった。美風さんと呼ばれて苦しくなるし、レイジと仲睦まじく笑い合っているのを見るのはつらい。
この気持ちを、ヒトは嫉妬と呼ぶらしい。最近知ったことだ。
彼女と話しているボクを見て「僕ちん嫉妬しちゃうなぁ」って笑うレイジが、教えてくれた。知ったあとに、知りたくなかったと後悔した。
「ねぇアイアイ聞いて?」
「どうしたの」
「シャイニーさんにバレちゃった」
ある日、レイジは苦笑しながら言った。聞こえていたらしいランマルは溜息をついて、カミュは興味なさそうに甘すぎるだろう紅茶を飲んでいた。
「そう、じゃあお別れだねレイジ」
「ちょちょちょ、待ってよ話しには続きがあるんだって!
僕ももうすぐ30歳でしょ?だからシャイニーさんに頭下げて頼みまくったら、なんと!結婚許してもらっちゃった」
ケッコン?
「よかったね」
「ありがとアイアイ!
いやー言ってみるもんだよねぇ」
彼女が隣にいたのは今からどれくらい前だろう。もう、春が何回か来ていた。
ボクの姿は変わらない、けれど彼女は綺麗になっていくばかりだった。
レイジの横で、楽しそうに、ボクに見せていた笑顔を向けるのが辛いと思ったけど、仕方ないと言葉を飲み込んだ。
「アイアイ、泣くほど喜んでくれるなんて!」
泣く?
ボクが?
頬を触るとそこには生暖かい水が流れていて。故障した?博士のところいかなきゃ、なんて呑気に考えていた。
「ねぇレイジ、これはなに?」
ねぇ、教えてよ。
涙を止める
術を知らずに
(ボクは、)20130426
次でラスト