「藍は、運命の赤い糸って信じる?」


ヒトは、どうして運命なんて言葉を好むのだろう。赤い糸?なにそれ。
理解のできない言葉を知りたいと思うけれど。…けれど、あまり興味はないのだ。


「藍、」
「…なに?」

「へへ、呼んでみただけ」


君は、ボクの隣にいた。
たいした用もないのにボクを呼んで、にっこりと笑って肩にもたれてくる。最初は、興味もなかったし煩わしいと思っていたんだ。
けれどいつからか、君が隣にいることが当たり前で、誰かと笑い合っているのを見るのが嫌で、感情がコントロールできなくて、悩むなんてヒトみたいなことをしてオーバーヒートしたこともある。

この感情がなんなのかわからないままでも構わない、そう思っていたんだ。


「藍、わたし藍が好き」

「すき?」


好き?好きってなんだろう。あぁ、よく歌詞にある愛を伝える言葉だったか。それは好意、親しみをもつ相手に告げる言葉だったはずだ。


「…へぇ、ありがと」


とりあえず、言ってみたら彼女は眉を寄せて返事が欲しいと言い出した。

返事?なにを言えばいいのかわからない。好きと言う言葉をもらったら、ありがとうと言えばいいのでは?これは感謝の言葉だ。


「返事って、何言えばいいの?」
「だ、だってわたし、藍に告白したんだよ?」


告白、心の内を告げることだ。わからない、理解できないよ。君が何を欲してるかなんて。


「…もういい、」
「なんで?」

「わたし、藍の恋人になりたいって、思ったの

けど、藍はわたしのこと好きじゃないんでしょう?」


じゃあ、もういい。
彼女は瞳いっぱいに涙を溜めてボクの部屋から出ていった。わからない。何故泣く必要があるの?
ボクは君に何を言えば良かったの?


その日から、彼女はボクの前に現れなくなった。







「好きだって言われたら、なんて言えばいいの?」
「え、アイアイ告白されたのー?けど恋愛禁止だし、断るしかないよねぇ」

「そういうことを聞きたいんじゃないんだけど」
「好きなら自分も好きだって言うし、そうじゃないならゴメンって謝るのが普通じゃない?」

「…ふーん
じゃあ好きってどういう感情なの?」


ボクが言うと、レイジはきょとんとした後に笑った。そして、


「その子の事を考える回数が増えたり、笑顔を見たら嬉しくなったり、他の人と話してると胸が苦しくなったり、名前を呼ばれると嬉しくなったり、とかかなぁ

あ、あと、泣き顔は見たくないって思うとか」

「泣き顔、」


この前、彼女が泣きそうになっていたとき、なんだか苦しくなったことを思い出した。虫が嫌いで泣いたときも泣いてほしくないと思ったし、今は事あるごとに彼女のことを考える。
ボク以外と話していたら嫌だと思うし、名前を呼ばれるのは嫌じゃなかった。


「じゃあ、ボクは…」


彼女が、好きだというのか。
ボクは、ヒトじゃないのに、ヒトを…彼女を好きになった?


今、やっと気付いたのに。


君は、ボクの隣にいたはずなのに、いなくなった。ねぇ、何してるの。











一ヶ月後、たまたま事務所に用事があって歩いていたときに彼女を見つけた。

けど、



なんで、レイジの隣で笑ってるの。



赤い糸は
するりと解け



(君の運命の赤い糸)
(それはボクと繋がっていた?)



20130426

一万打記念で藍ちゃんの切ない物を打ちたいと思ってお題サイト様を巡っていたらこのお題に出会いました。