訪問者は焦る。




今日から約一ヶ月後、神宮寺くんが出るファッションショー。その二週間前に曲を提出しなければならない。そして、そのファッションショーに招待された。
作曲の仕事は増えるばかりで。アイドルとしても毎日のようにテレビ局に向かっている。仕事をもらえるのは有り難い。もらえずに、苦しい思いをするよりよっぽどいい。そして、忙しいと彼らの事を考えられなくていい、というのもある。


「…おなか、すいたなぁ」


ここ数日、シャイニーに寮ではなく自宅で仕事をするように言われていた。もしかしたらシャイニーは、私が彼らに告白されたこと全てお見通しなのかもしれない。あの人は、優しいこれど怖いから。だから、こうやって仕事が有り得ないくらい回ってくるのも、この間言われた事務所経営の話しも、なんとなく、頷ける。


「そういえば…なんにも食べてないや」


3日程、水とコーヒー以外を口にしていないことを思い出す。お腹は空くけれど作るのが面倒で、コンビニに行くのも億劫で。結局何も食べずに作曲の仕事。もしくはテレビ局へ。

人と会ってはいるけれどそんなに会話もなく、業務的なもので。久々に誰かに会いたいなぁ、なんて思ってた。


ピンポン、と不意にチャイムが鳴ってふらつく足を動かして画面を覗くと、そこには


「はーい、」
「…俺だ」
「うん、今開けるね」




ロックを解除してから5分もしないで再度チャイムが鳴る。玄関のドアを開けると見知った人物がそこにいた。


「いらっしゃい、カミュ」
「…寝ていないのか」
「あ、バレた?仕事立て込んでて……あ、どうぞ入って」


邪魔をする、とリビングに向かう麗奈について行くカミュの手には、紙袋があった。


「はい、紅茶どうぞ
砂糖は今日6杯入れといたよ」
「あぁ」


早速、と言わんばかりに口をつけるカミュに、麗奈は笑って自分はコーヒーを口にした。


「寿から聞いたが…早乙女に言われたんだろう」
「ここでのほうが捗るだろって言われてね…確かに捗るんだけど、」


刹那ぐう、と麗奈の腹部から音が響きカミュは眉を寄せて麗奈を睨みつけた。


「貴様、まさか」
「あはは、何も食べてないんだよね」


大馬鹿者、とカミュは怒鳴り付けてもってきていた紙袋を手渡す。なに?と問われ中を見ればいいだろうと怒りをあらわにしたまま言い放つ。ごめんね、と謝ると麗奈は紙袋を開き声を漏らした。


「これ、」
「寿達が貴様に渡せと五月蝿いから持ってきてやったまでだ。他意はない」
「そう、…ありがとカミュ」


袋の中には寿弁当と書かれた箱、果物、ケーキ、ゼリーに飲み物等が入っていた。嶺二の字で「無理しないでね」と書かれており、心が温かくなる。ST☆RISH一同、と書かれたケーキ屋の箱と春歌の字で「曲が出来たので聴いてほしい」と書かれた紙も出てきた。優しい彼らに思わず笑った。


「あと、どれくらい残ってる」
「うーん、ファッションショーのは完成したし、林檎のもあとは簡単な手直しだけ、蘭丸のはまだアレンジ必要で、じぶんの、は…」

「、麗奈?」
「っあ、ごめ…目眩しただけ」


ぐるぐる、目が回って頭がぼうっとする。大丈夫だからと笑ってみせるけれど、笑えているかわからない。猛烈なる吐き気と、目眩。


「ごめ…大丈夫、大丈夫だから」
「貴様のその言葉は信用ならん、いいから休め」
「でも、仕事、ま、だ…」
「麗奈!」


突然意識が途切れた麗奈は、その場に倒れ混んだ。がたん、と音を立ててカミュは立ち上がる。麗奈と呼んでも何も返ってこない。麗奈に近寄ると見たことがないくらいに麗奈の肌は青白く、カミュの背が冷たくなった。


訪問者は焦る。


(ぐるぐる、世界が回る)


20130912
ミュー様のターン(再び)
ミュー様が好きすぎて打てない。