「ただいま春歌!」
「麗奈さん、おかえりなさいっ」
水族館は楽しかった、かなりはしゃいでしまってオンエアが少し怖い。
寮に帰ってくると、春歌が入口で待っていてくれて思わず抱き着く。あぁ、落ち着く、2日ぶりの春歌、可愛い。
「お仕事お疲れ様でした、寿先輩も」
「ありがと後輩ちゃん
オンエア楽しみにしててちょ」
「はいっ、録画します!」
きらきら、輝くほどの笑顔に嶺二も釣られて笑う。それじゃあ部屋戻るね、と嶺二は麗奈の頭を撫でて荷物を持って歩きだした。
「嶺二、トキヤ達いたら全員談話室に集合って伝えて?」
「それって、ランラン達も?」
「うん、お土産渡したいから」
りょーかい、と嶺二は手を振って今度こそ歩きだした。春歌に、私達も戻ろうか、と言うと春歌は頷いて私の荷物を持つのを手伝ってくれた。
「さて春歌、課題は全部できた?」
「あ、ええと…一応は。
麗奈さんの曲、一度歌っていただけたら編曲して完成です」
「ん、じゃあ先に談話室行って聞かせてもらおうかな」
動きやすい服に着替えて、お土産を持つ。春歌は楽譜を数枚持って部屋を出た。
「あ、そうそう。選んだ5曲、弾けるようになった?」
「私の苦手な譜面ばかりで苦戦しましたが…なんとか弾けるようになりました」
「偉い偉い。さすがは春歌、」
ぽん、と頭に手を置くと春歌は頬を赤く染めてありがとうございますと笑った。…かわいいこの子。
談話室に着くと、そこにはトキヤと嶺二、カミュ、セシル君がいた。他の子達は仕事でいなかったり事務所に行かなきゃならなかったりと全員が集まるのは1時間は後になりそうで。春歌は椅子に座りピアノに向かう。「後輩ちゃん、なに弾くの?」と嶺二が問うと、春歌は「麗奈さんに歌っていただくんです」と嬉しそうに笑う。
「ん、いいね」
「本当ですか?」
「うん、修正が必要なところあるけどだいたいはオーケー。頑張ったね」
「あ、ありがとうございますっ」
春歌と一緒に曲を直して、じゃあもう一度歌ってみようかと提案すると春歌は鍵盤に指を置く。いいよ、と言えば春歌は頷いて音を紡ぐ。綺麗で真っ直ぐな、聴いた人が嬉しくなるような、楽しくなるような、幸せになれるような、そんな音。
音に合わせて私も歌を紡ぐ。直しながら書いた歌詞はまだ完璧ではないけれど、春歌が私をイメージして作ってくれたこの恋の曲に合うような詞。
サビにはいるところで、がちゃりと扉が開いた。
元からいた4人は私が歌うのを黙って聞いている。そして、今入ってきた子も、黙ったままだ。
ちらり、扉を見ると那月と翔、そして音也が立っていた。3人の顔は、なんだか驚いているような。けれど目の奥に、確かに宿った決意と、歓喜。
散々聞いていたトキヤが、綺麗にハモる。そしてセシル君も。嶺二とカミュは顔を見合わせた。
曲が終わると、3人は駆け寄ってきて興奮気味に口を開いた。
「今の、今の曲って七海が作ったの?」
「は、はいっ」
「すごい、すごいよ七海!
麗奈の歌、こうやって聞くことなかったからオレ、今すごく感動してる…!」
「サビの最後、なんであんな高音出るんだよ…」
「麗奈ちゃん、やっぱりすごいです。ハルちゃんの曲もとっても素敵でした…!」
3人の言葉に、春歌と顔を見合わせて笑う。春歌には黙っているが、今度の歌謡祭、この曲で出ようと思っている。課題を出すと決めたときには決めていたから、シャイニーには許可を得ている。歌謡祭での評価が良ければ、この曲でCDも出すつもりだ。
このことを知ってるのはシャイニーに林檎、龍也だけ。けれど多分、嶺二達は気付くだろうな、あとは勘がいいトキヤ。口は堅いだろうからいいけど、春歌を驚かせたい。
いつまでもマスターコースにいれるわけじゃないから、この曲で教えてあげられることを詰め込もうと思うんだ。
「春歌、」
「はい…?」
「スパルタ指導していくから、気合いいれてね」
「はいっ」
私の可愛い妹分、成長させてあげる。私も頑張るから、一緒に頑張ろうね。
私のためのウタ
(嶺二うるさい)
(ひっどい!)
20130821