恋桜、ひらりと



オーディションが始まる。今まで真斗くんと練習していたから彼の演技に慣れていた私は、他の参加者の演技に違和感を感じていた。

そして、真斗くんの番だ。よく似合っている、うんカッコイイと素直に思う。


「よろしくお願いします」


頭を下げた真斗くんに、笑みを向けると、ホッとしたように真斗くんも笑った。緊張しているんだろう。


「緊張しないで、練習通りやろう」
「はい、」
「あと、アレね?」


言うと、真斗くんは少し頬を染めて頷いた。監督の声がかかり真斗くんの演技が始まる。
練習で指導したところはクリアされていたし、気持ちがこもってる。受かりたいという気持ちもだけど、演技をすることが楽しいと言っているみたいに、彼の演技に惹かれる。


「どうして、貴方なのですか…!」


いま私の目の前にいるのは、愛おしい人。そして真斗くんも、私をまるで愛しいと言っているような目で見つめてくる。優しく、力強い抱擁に、そっと私も身体を寄せれば、カット!と監督から声がした。

感嘆の声が審査員から次々にもれて、自分のことのように嬉しくなった。


「お疲れ様です、結果は後日、事務所のほうに書類を郵送します!」


解散の声がかかって、私も帰っていいと言われたので帰り支度をしていると携帯が鳴った。
画面には蘭丸の名前。息を飲んだ。


「…はい」
『は、麗奈か?』
「え…うん」
『間違えた。じゃあな』


言うとすぐに通話が切れて、ツーツーと無機質な音が聞こえてくる。なんだろう、仕事より緊張した。


廊下に出ると真斗くんが待っててくれて、龍也からもう着くと連絡があったらしい。


「真斗くん」
「お疲れ様です」
「お疲れ様、すっごく良かった。受かるの間違いないね」


そうだと、いいのですが。と自信なさげな彼の背中を叩く。驚いて私を見る真斗くんに、眉を寄せて睨みつけた。


「あれだけ指導して受からないなかったら、ST☆RISHは絶対にうたプリアワード受賞できないよ」
「な、」

「翔も音也も仕事続々きてるし、那月もオーディション受かってる。レン君はモデルの仕事結構きてるし、トキヤは言わなくてもわかるでしょ?」
「っ、」

「なーんて
大丈夫、オーディションは受かってると思うし受賞もできるよ。頑張ってるもんね」
「麗奈さん」

「初日、私が食堂出てった後片付けてくれたの真斗くんでしょ?

そういうのも、ちゃんと見てるし、努力たくさんしてるもん、大丈夫だよ。自信持って?」


ありがとうございます、と真斗くんは頭を下げた。行こうか、と促せば頷いて歩きだした。


後日、事務所には真斗くんの合格を知らせる書類が届いた。
稽古をしてまた演技に磨きをかけた真斗くん主演の舞台は、大成功で千秋楽を向かえ、また一歩受賞に近付いたんじゃないかと思う。


「お疲れ様、頑張ったね」
「麗奈さんのお陰です。本当に、ありがとうございました」
「役に立ててよかったよ」

「それと、」
「ん?」

「演技じゃなく、貴女に触れたいと思いました」
「え…?」

「これからは後輩じゃなく、男として見てもらえるように、頑張ります」
「…え、あ…」

「ふ、顔…真っ赤ですよ」
「だ、って急にだったから…!」

「他の誰にも負けるつもりはない。覚悟していてください」


笑った真斗くんに、私は赤面するしかなかった。


恋桜、ひらりと



(…また、増えた)



20130615

増える増える…まぁ様も確定です(←)

ヒロインがモテるのは、飾らない人柄と接しやすさ。そして、忙しさのあまり見ていないようで、実はちゃんと後輩達を見ているからです。

本編として書いてはいませんが、まぁ様の場合は稽古中に接することが多くなり、笑顔を見る度に以前春歌に感じていたいた思いと同様に思いが募っていきました。
といいますか、アイドルとしてのヒロインを元から知っていたわけで、ファンといいますか…やはり先輩として尊敬していた部分もあり。
自分のことを認めてくれている、というのもありまぁ様はヒロインに惹かれ、恋をした、という感じです。

打たなきゃ意味ないですよね…!いずれ番外編で打ちます…!