それから、ST☆RISHとセシルくんが練習していた部屋に来てくれて、練習に付き合ってくれた。女役はトキヤ。彼もプロだからすっかり役に入っていて、皆は驚くばかり。…いや、トキヤは演技の仕事もしてたし、というかHAYATO自体が演技だったから、流石というか、当たり前というか。
真斗くんはまたも抱擁のシーンで固まってしまう。確かにに先ほど言った言葉「相手に恋をしろ」というのはトキヤ相手だと厳しいものがあるから仕方ない。
「ん、じゃあトキヤ交代
真斗くん、私相手にやってみようか」
真斗くんはぴたりと止まって私を見た。にっこり、笑うと彼は目をそらしたが…多分大丈夫だと思う。
「レディの演技もまた近くで見れるなんて光栄だね」
「おだてても何もでないわよ?」
「嫌だな、俺は本音しか言わないよ。特にレディ、君にはね」
う、と言葉に詰まる。やはりレンくんは女の扱いに長けている。こんな様子でいつも調子を崩されるのだから困る。
「麗奈さん、ほんと演技うまいからなぁ」
「ほんと、オレいつもすごいなーってドラマ見てるよ」
「もう、皆お世辞はいいから!
真斗くんだけじゃなくて、皆も演技の心得として学ぶつもりでいなさい」
はーい、と声が返ってきた。すっと真斗くんに目線をやると、彼は私を見ていたようでパチと目が合う。手招きすると真斗くんは私に近付いてくれて、私より背の高い彼は屈んでくれた。
「真斗くん、今からちょっとの間、恋人同士ね」
「なっ、」
「ふふ、無理ならいいけど?」
よろしくお願いします、と顔を真っ赤にして言うものだから、部屋にいる皆…といってもトキヤ以外が驚いていた。
「さて、やろうか」
目の前にいる真斗くんが愛おしい。何故貴方が行かなければならないの、何故、なぜ。置いていかないで、抱きしめてよねぇ、ずっと、ずっと貴方を思ってきた。
もちろん演技ではあるが、私は今真斗くんを愛す一人の娘。真斗くんは少しだけ驚きながらも一緒になって演技をする。
「…やるねぇ、」
「すごいよマサ!」
優しく、けれど愛おしいと言われているような錯覚を起こすくらいの力強い抱擁。できるじゃない、ほら。君の仲間は皆すごいと、顔を赤らめる者もいる。
「OK
このままいけばオーディションは間違いないでしょ」
「ありがとう、ございます」
真斗くんはホッとしたように胸を撫で下ろす。オーディションは3日後。彼は、大丈夫だ。
じゃあ解散、とST☆RISHは部屋を出ていく。けれどトキヤは音也に自分は麗奈に話があるから、と一人残った。
「トキヤ、どうしたの?」
「先程、聖川さんに何を?」
「…いつものアレだよ」
トキヤは、私がラブシーン(と呼べるかわからないくらい軽いもの)があるときに自然に演技ができるように自分に言い聞かせる「恋をする」ということを知っている。
だからか、言うとトキヤは眉を寄せた。
「貴女は…そうやっていつも男性をたぶらかしているのですか」
「た、ぶらかすって…人聞き悪い」
「その通りでしょう」
ぐ、と腕を引かれて、私はトキヤの胸にぽすんと寄り掛かる体勢になった。腕はすぐに離されたが、変わりに腰に手を回されて、私は動けなくなる。するりと頬を撫でられて、その手は私の顎を優しく掴み、くい、と上を向かされる。
苦しそうな、トキヤと目が合った。
「ト、キヤ…?」
「貴女に、貴女に惹かれる人間が多いのは仕方ないことです
ですが…誰にも、渡したくはない」
練習後トキヤと
20130609