改めてようこそ



蘭丸達のファンは素直に道を開けST☆RISHを通した。

蘭丸は練習なんてしていない、ぶっつけ本番である。けれど、ライブが始まる前に他のメンバーに言っておいたから他の人達は少ない時間でも多少練習していたようで、スタッフに頭を下げて機材の位置をずらし、あがってきたST☆RISHにマイクを手渡す。


「…貴女という人は」
「いいじゃない、ファン増えるわよ?」


そういう問題じゃないでしょう、と呆れたように溜息をつくトキヤの背中をとん、と押して見せ付けてきてよね、と笑うとトキヤはまた溜息をついて、吹っ切れたように当たり前です、と答えた。流石、芸歴が長いだけのことはある。


「音也、翔、那月、真斗くん、レンくん。あの時を挽回するチャンスをあげる」


ぴくりと反応した6人は、顔を見合わせて頷きあった。…うん、大丈夫かな。ちらりと蘭丸を見るとフン、と些か機嫌が悪そうだけど、きっと、少しは期待しているんじゃないかな。ライブのこと、音也に声をかけてあげた時点で、気にかけていることがわかるし、私のしたいことを結局は許してくれるあたり、後輩達の頑張りを、少しは認めてきているのだろう。


ドラムのカウントから、曲が始まる。ST☆RISHは知名度はそこまで高くなかったけれど、最近は着実にファンを増やしてきているし、今もそれぞれ名前を叫ばれているから、ここにも彼らのファンはいるようだ。

誰?と首を傾げる人達もやはり多いけれど、きっと、きっと彼らのファンになって帰ってくれるだろう。…そう、願いたい。


以前と違い、歌っている彼らは輝いていた。合いの手を知っているファンの子達が、曲中に一緒になって歌ってくれて、彼らを知らなかった子達も最後には一緒になって歌っていた。


「いまの曲、もう一回!」


曲が終わってすぐのことだ。蘭丸達のファンで、かなりの頻度で来ているらしい男性ファンが、叫んだ。男性の声、というのにST☆RISHのメンバーは目をぱちくりとしていたが、他の人達ももう一回、と繰り返すものだから蘭丸達は顔を見合わせて、頷いた。


「…仕方ねぇ、コイツらのはラストだからな」
「さっすが蘭丸」

「うるせぇよ、そのかわり…2曲だ」

「うげ、」


軽いだろ、お前なら。と挑発的に笑う蘭丸に、口の端がひくりと動く。仕方がない、蘭丸がこんなに気前よくしてくれているんだ。新しく2曲…いや、合計3曲や4曲、提供しようじゃないか。


「それじゃ、皆の期待に答えて!
ST☆RISH、マ ジ L OV E10 00 %!」


再びカウントが始まり、先ほどよりもファンの子達の合いの手が纏まっている。歌って踊るST☆RISHの皆も、楽しそうだ。

うん、見直した、っていうか。私も、彼らのファンになってしまうほどだ。


「ありがとうございましたー!」


音也の声でST☆RISHは笑顔で一礼する。ライブハウスに響くファン達の声に、鳥肌と興奮。楽しくなってきた。彼らが、本当にうたプリアワードをとれるのか。その行く末を、しっかり見届けよう。そう、思わせるほどに、彼らは輝いていた。


下にいる春歌と目が合って、にっこりと笑い合う。大丈夫、認めたよ。彼らを、私は見捨てない、今まで以上に、厳しく、そして悩んでいたなら手を差し延べてあげよう。














「麗奈さん!」

「あ、お疲れ様」
「お疲れ様です。あの…、ありがとうございました!」


がば、と頭を勢いよく頭を下げた音也と翔、そしてそれに続いてトキヤに那月、真斗くんにレンくんも頭を下げた。
「すごく良かったよ。仕方ないから、認めてあげる。

改めて…マスターコースにようこそ、って感じかな?」


言うと、皆ホッとしたのか肩の力が抜けたのか良かったぁ、と息をついた。


「これからは、今まで以上に厳しくするから覚悟しててよ?」


はい、と元気な返事が聞こえてきて、思わず笑った。


「真斗くん」
「はい、」

「明日から、本格的に練習ね」


わかりました、と顔を引き締めて言った真斗くんに、期待してるよと笑えば真斗くんは頬を少しだけ赤らめて頷いた。



改めてようこそ



(マスターコースは厳しいよ?)



20130606