すぐに作って持っていってもいいかと思ったけれど、今寝たばかりの林檎を起こすのは可哀相で、1時間後、玉子粥を作って器によそって林檎が寝ている部屋に持っていく。ベッドの近くにある棚に置いて、布団を頭まで被っている林檎に声をかけてみる。
「林檎ー、」
「……ん、んー…」
布団を少しだけ動かして林檎の顔を覗いてみる。まだ頬が赤いから熱も高いだろう。
「林檎、林檎、」
「ん、…ん?」
「起きて、……、きゃっ」
ぼふん、と音。
ぐい、と腕を引かれたと思えば次の瞬間暖かくて。耳元では「うーん、」と唸り声が聞こえる。いま、私は、
「り、りんご!」
「…麗奈」
「っ、ん…ちょ、りん…んんっ」
顔を上げたら、目の前に林檎の顔がドアップで。目を開けたまま息を飲んだ。
伝わる熱が、いま林檎とキスしてるんだって、実感させる。
どくん、どくんと鳴り止まない心臓の音が、この静かな部屋に響いて聞こえているような錯覚、柔らかい唇の感触。あぁ、
「ん、…りんっ、ふぁ…っ」
「…ん、」
ぬるりと熱い何かが口の中を這う。林檎の舌だと気付くのに少しの時間を要したけれど、これは林檎の舌で、逃げようと舌を引っ込めても、その熱い舌から逃げられなくて。
だんだんとぼうっとしてきて目を閉じた。
ただ、そのキスが気持ち良くて、酔いしれて。あぁ、なんだろう、なんか、私。
「ん、…は、…はぁ…」
「麗奈…、」
「ひゃ、」
やっと離された唇。新鮮な空気の吸い込んで肩で息をしていたらいつの間にか頭に回されていた手に引き寄せられて、耳元で名前を呼ばれた。はぁ、と熱い息のせいか耳がくすぐったくて身をよじる。
「…す、き…だよ、」
「り、…りん…ご」
聞きたく、なかった。
林檎と私は、同期で、仲間で、親友で、お姉ちゃんみたいな、お兄ちゃんみたいな、真ん中な感じだったけど、大切だったけど…あぁもう、なにを言いたいかわからなくなってきた。
「…麗奈、ごめん、ね」
「え…?」
手の力を緩められたから、私は少しだけ身体を離して林檎を見た。うっすらと目を開けた林檎は、私の頬に手を伸ばし、苦しそうに、つぶやくように、
「泣か、ないで」
「…泣いて、なんか」
ぽろぽろとこぼれるのは涙。悲しくなんかないのに、泣きたくなんかないのに。
違う、違うんだよ、
熱い唇、熱い舌
20130515
ぎりぎりいいぃぃ…。
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